夏の甲子園前哨戦の春季大会で“明暗” 敦賀気比に試練、福井工大福井は課題克服

沢井史

県内17連勝中の敦賀気比が大敗

今春の県大会で福井工大福井に5対15と大敗した敦賀気比。県内で無敵の17連勝だったが、一昨秋以来の敗戦となった。エース山崎と投は安定しているだけに、4季連続甲子園出場には打線の奮起がカギとなる(写真は今春のセンバツから) 【写真は共同】

 夏の甲子園に向けた前哨戦とも言われるのがこの時期に各都道府県で行われている春季大会だ。地区大会がすでに終了している地区もあるが、春季大会は冬場の鍛錬を乗り越えてどれだけ力がついたかを見たり、はたまた夏に向けて戦力になる選手がいるのかを見極めたり、チームによってさまざまな思惑がある。

 先日行われた福井大会。福井と言えば一昨年の夏の甲子園でベスト4に進出して以降、全国クラスの地位を固めつつある敦賀気比高がいるが、その敦賀気比高が5月5日、県の決勝戦で5対15と大差で敗れた。敦賀気比高にとってこの春の県大会は“試練”という2文字が最後に浮かび上がる大会となった。

 敦賀気比高は昨春から県内では無敵で17連勝を重ねていたが、黒星を喫したのは一昨秋の県大会決勝以来。その時も相手は同じ福井工大福井高だった。しかも、公式戦で2ケタ失点したのもこの試合以来。反対に言うと、それだけ敦賀気比高が県内で無敵の強さを誇ってきたということになる。

エース温存も野手はベストオーダー

 試合は福井工大福井高の豪打が序盤から爆発した。初回に4番の北村進太郎のタイムリー二塁打で先制し、2回には2死走者なしから連続安打と失策で加点。その裏に敦賀気比高は7番・伊藤大吉のタイムリーで1点を返したが、3回にはまたしても4番の北村の特大の左超え2ランが飛び出し、以降も着実に得点を重ねた。決勝戦は規定でコールドゲームはなく、9回まで福井工大福井高に得点がなかったのは4回と5回だけ。豪打といえば敦賀気比高、というイメージが浸透していただけに、ゴールデンウイークでほぼ満員だったスタンドの高校野球ファンは衝撃を受けただろう。

 ちなみに、両チームともエースは登板なし。とはいえ野手はほぼベストオーダーで、序盤から湿っていた打線に加え、エラーなど細かいミスにもつけこんだ福井工大福井高の攻撃が凄まじかったとしか言いようがない。だが、敦賀気比高・東哲平監督の中では試合前からイヤな予感はあったという。

「2番手投手の差と言えばそれまでですが、点を与えてはいけない場面でミスなどが出てしまいました。打つ方は少しずつ良くはなってきていますが、点を取られた後に取り返してもついていかないといけなかったですね」

2年前に比べて今年の打撃は2か3…

今春のセンバツでは開幕戦で優勝した智弁学園に0対4で完封負けを喫した福井工大福井。好投手・村上から10安打を放つも、得点につながらなかった。その後、打線を強化し、今春では県大会4試合で45得点を挙げた(写真は今春のセンバツから) 【写真は共同】

 2年前の夏の甲子園で全国のファンに衝撃を与えたあの豪打以降、敦賀気比高といえば常に打力を実力のものさしにされてしまう。少し打線が湿っただけで「なんだ、こんなものか」とやゆされることもあるが、先輩たちが残してきたものはそれだけ大きく、期待の表れでもある。昨年のチームは投打の柱・平沼翔太(現北海道日本ハム)を中心にセンバツで躍動した松本哲幣(現同志社大)や、主将の篠原涼(現筑波大)など柱になる選手がいてセンバツで優勝。夏の甲子園にも駒を進めた。だが、現チームは発足時から指揮官がチームに対して常に厳しい目を向けていた。

「前のチームと同じくチームの結成が遅かったんですけれど、このチームは経験者がいなくて柱がなかなか出来なかったんです。それでそのまま秋の県大会で優勝して、北信越大会でも優勝。神宮大会の決勝で負けて、“自分たちはまだまだ”と気づかされた者もいたかも知れないけれど、以前までのチームに比べるとあまりにも力の差がありすぎました」。

 冬場の練習では、皮手袋をはめずにスイングを行うなど例年より練習メニューを厳しくしスイングを重ねた。それでもセンバツでは2試合で計7安打とかつての打撃は鳴りを潜めた。「2年前のチームの打撃が10だとしたら、今年のチームは2か3」と指揮官は辛口だが、日を追うごとに「良くなってきている」という打撃にやはり期待するしかない。この春は1年生2人をスタメンに起用するなど打線のてこ入れに余念がなかったが、エースの山崎颯一郎が安定してきているからこそ、チームの“起爆剤”となる選手が出現するのを待つしかない。

福井工大福井は4試合45得点の猛打

 一方、4季ぶりに敦賀気比高を下した福井工大福井高にもあるテーマがあった。振り返ることセンバツの開幕戦。優勝した智弁学園相手に10安打も放ちながら完封負けをする屈辱を味わった。「いくらヒットを放っても、点を取らないと意味がない。この春は得点力にこだわって戦ってきた」と大須賀康浩監督。4番の北村進太郎を中心に切れ目のない打線が持ち味だが、センバツで課題を持ち帰り、チャンスにいかに走者を還すことを頭に置き打撃練習を強化。

 今春の県大会全4試合で45得点を挙げ、敦賀気比高のお株を奪う豪打で圧倒した。なかなか勝てなかったライバルに土をつけ、安堵の表情を浮かべるも「これだけ打てたことは自信にはなるが、エースが投げれば試合展開は変わる。夏は何が起こるか分からない」と指揮官。だが、福井工大福井高にとっては、ひとつのきっかけになる1勝だったことは間違いない。

“明と暗”がくっきりと分かれた春季大会。だが、ライバル同士でさらに切磋琢磨し、夏にはさらなる激戦も予想される。近年、県のレベルも上がり、レベルアップした姿を披露できるか――この2カ月の鍛錬がすべてを左右する。
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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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