北島康介、涙で彩られた最後の完全燃焼 リオ行きならずも、燦然と輝く軌跡

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「最後の戦い」は志半ばで終えん

「最後の戦い」を終えた北島康介が語ったこととは? 【奥井隆史】

「結果は結果なので、受け止めるしかないです。悔しいですけど、わりとすがすがしいと言うか最後まで自分の攻めるレースができていたので、やり切った感でいっぱいです」

 リオデジャネイロ五輪の代表選考を兼ねた競泳の日本選手権が8日に行われ、男子200メートル平泳ぎでは、5大会連続出場を目指した北島康介(日本コカ・コーラ)が2分9秒96の5位に終わり、代表権を逃した。

 北島の「最後の戦い」は、志半ばで終わりを迎えた。100メートルで2位になりながら派遣標準記録を切れず、五輪への望みを託して臨んだ200メートル決勝。150メートルまでは2位につけるも、残り25メートルで失速してしまう。すると追い上げてきた渡辺一平(早稲田大)らにかわされ、リオへの道はついえた。

5位でレースを終えた後、北島はプールに向かって深々と一礼した 【奥井隆史】

 電光掲示板に順位が表示されても、北島はすぐにプールから出てこなかった。これまでの競技人生を振り返るように、しばらく水につかる。そしてプールサイドに座ったあと、立ち上がって一礼した。スタンドからは大きな拍手が巻き起こり、誰もがこの偉大なるスイマーに敬意を表しているようだった。

「自分に『お疲れ様でした』という気持ちでした。平泳ぎは若手がどんどん伸びてきているし、こんなにも高いレベルの中で最後に自分は戦えた。そういう後輩たちへの感謝の気持ちも(一礼には)含まれています。選手として最後は不本意ですけど、これだけたくさんの人に見てもらって、自分のパフォーマンスをここまで高いレベルで出せたということに自信を持って、次のステージに進みたいと思います」

あふれ出た涙「平井先生に感謝」

 レース後の取材対応で、気丈に言葉を発していた北島の声が涙で詰まったのは、自身を指導してくれた平井伯昌コーチについて話が及んだときだった。

「決勝が始まる前、平井先生からは『よし、行ってこい』という言葉をかけられました。本当にいつもと変わらず送り出してくれる先生がいたから頑張れたんだと思います。中学生のときから指導を受けていたし、弱くなった自分を見て、もう一度自信と強さを取り戻させようとしてくれた先生には感謝の気持ちでいっぱいです」

 北島の目からあふれ出す涙。質問する報道陣からも鼻をすする音がここかしこから聞こえた。続いて取材に応じた平井コーチも、いつもの饒舌(じょうぜつ)さが影を潜め、目には光るものがあった。

「『お疲れさん』としか言えなかったです。日本のトップ、世界のトップとして、みんなが憧れ、尊敬する選手になってくれたし、本当にすごい選手だったと思います。速くて強い、人の面倒見も良くて、練習のときは自分が一番苦しいはずなのに、一番明るく練習をやってくれた。中学のときから、『もし世界のトップになったら、誰からも好かれる選手になってほしい』という話をしていたので、そういう選手になってくれたのがうれしいですね。感無量です」

 2人がタッグを組んで20年となる。その間、数え切れないほどの喜びと苦しみを共有してきた。今ではお互いが考えていることは手に取るように分かる。平井コーチは「昔は大切な教え子だったけど、いつのまにか友人みたいに何でも話せる仲になっている」と笑った。

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