北島康介、涙で彩られた最後の完全燃焼 リオ行きならずも、燦然と輝く軌跡
第一線から退く意向
優勝の小関也朱篤(手前)、2位・渡辺一平(中央)には及ばなかったが、最後まで競り合い見せ場をつくった 【奥井隆史】
今大会はまさに“北島劇場”だった。初日の100メートル準決勝では派遣標準記録を切り、会場を大いに沸かせた。翌日の決勝で出場権を逃したときは4914人の観客で埋まったスタンドが奇妙なくらいに静まり返った。なかなかそんな光景を目にすることはない。本来であれば、このストーリーの結末がハッピーエンドで締めくくられれば、筋書きとしては申し分なかったのだろうが、そうはならなかった。
「真剣勝負はもう終わりか?」という質問に対して、北島は「自分の中では終わりです」と答えた。引退という言葉は明言しなかったが、つまりは第一線から退くという意味だ。「この(試合で起こる)興奮は2度と味わうことはないから、辞めた先輩に聞いてみます」と、最後にいたずらっぽく笑った。
これまでの栄光を考えれば、強いうちに引退するという選択肢もあったはずだ。それでもそうしなかったのは「五輪を夢見ていたころのように、夢中で勝負したい」という思いがあったから。五輪出場はならなかったが、自分より若い選手たちとの勝負で文字通り完全燃焼した。
「『世界で金メダルを取るんだ』と言っていた時期もあったけど、最近は練習をたくさんして、自己ベストを出したいんだという小さいころの気持ちに戻っていたように思います」
競技生活の最後に、いわば自身の原点に立ち返っていたのだ。志半ばで終わったリオへの挑戦だが、北島がたどった軌跡はいつまでも燦然(さんぜん)と輝き続ける。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)