日本のスポーツビジネスが遅れている理由 コンサル目線で考えるJリーグの真実(1)

宇都宮徹壱

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の福島和宏さん(左)と里崎慎さん 【宇都宮徹壱】

 唐突だが、今の時代で最も誤解されている職業は何か? その問いに対し、私は迷わず「経営コンサルタント」と答える。経歴詐称が問題となった、某ニュース番組のコメンテーターが「経営コンサルタント」を名乗っていたこともあって、コンサルという職業そのものに怪しげなイメージが付着してしまったのは実に残念なことであった。というのも当連載を始めるにあたり、私はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社で働く公認会計士、コンサルの人たちにお話を伺う機会を重ねながら、彼らの優秀さと高いプロ意識に密かな感銘を覚えていたからだ。

 デロイトトーマツグループといえば、世界的な会計事務所、経営コンサル企業の日本におけるメンバーファームである。従業員はグループ全体で約9900人を数えるという。そのグループの1つ、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社のメンバーが中心となって昨年、スポーツビジネスグループを立ち上げ、Jリーグにも積極的にアプローチをするようになった。昨年12月のJリーグアウォーズでは、『J.LEAGUE PUB REPORT 2015(以下、PUB REPORT)』という、Jリーグのあらゆる試みの是非を可視化した冊子がJリーグから発表されたのだが、このサポートも彼らの仕事である。

 当連載は「Jリーグの現状を数字から読み解く」というのがコンセプト。そのための全面的な協力を、新たに立ち上がったスポーツビジネスグループに携わるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎さん(写真右=サッカー担当 ヴァイスプレジデント)にお願いすることとなった。今回はその前段として、そもそもなぜ彼らがスポーツビジネスに乗り出したのか、里崎さんと上司の福島和宏さん(写真左)に語っていただく。(取材日:2016年3月8日)

なぜスポーツ部門を立ち上げたのか?

――まずはベーシックなところから伺いましょう。デロイトトーマツグループの主な業務内容と、昨年4月からスポーツ部門を立ち上げた経緯についてお話いただけますでしょうか?

福島 監査と税務とコンサルとファイナンシャルアドバイザー、この4つの大きな業務があります。われわれがなぜスポーツ部門を立ち上げたのかというご質問ですが、2つの方向からの機運の高まりがありました。1つは2020年の東京五輪に向けて、スポーツとビジネスの両輪で走っていくという機運が高まっていく中で、何らかの貢献ができないかということ。もう1つは社内から、具体的には里崎を中心としたグループから「スポーツビジネス部門を立ち上げたい」という提案があったことですね。

里崎 弊社に『イノベーションアワード』というグループ内でのニュービジネスの提案の機会が年に1回ほどあって、そこに私たちがスポーツビジネスをデロイトトーマツグループとして、正式に立ち上げることについてのアイデアを提案したのが、最初のきっかけですね。

――デロイトトーマツグループはグローバル企業として知られていますが、UK(英国)やUS(米国)ではプレミアリーグやNBAなどの実績があると聞いています。これまで日本でそうしたビジネスの機運が高まらず、遅れてしまった要因は何だとお考えでしょうか?

里崎 私なりの私見ではありますが、日本はスポーツと体育が非常に融合した形になっていることが要因としてあると思います。「体育=教育」ということで人間形成や競技力の向上にフォーカスしがちになり、なかなか「スポーツビジネス」という発想が出てきにくい土壌があったのではないでしょうか。実際、いろんな競技団体の方とお話していても、「お金は(国や行政から)補助してもらえるもの」とか「奉仕の精神」「歯を食いしばって頑張ること」が美とされる風潮があったように感じられますね。

福島 私のほうから付け加えますと、企業がスポーツへの継続的なサポートが難しくなるなか、スポンサーフィーだけではないビジネスのサイクルを作る必要性というものを感じます。スポーツが社会に与える役割や影響は大きい。これまで、われわれにとってスポーツは縁遠い分野ではありましたが、ビジネスだけでない社会貢献や地域貢献ということを考えたとき、われわれが関われる余地があるのではないかと考えております。

まずはJリーグへアプローチ

スポーツビジネスグループを立ち上げた後、まずはJリーグにアプローチしていったという(写真は村井満チェアマン/中央) 【宇都宮徹壱】

――スポーツ部門を立ち上げて、まず何から始めたのでしょうか?

里崎 まず、どこに力点を置いてやるのかについて整理をしまして、野球、サッカー、パブリックという3本柱を設けました。3つ目の「パブリック」というのは、五輪のようなスポーツイベントや会場施設、さらには自治体が関連したスタジアムビジネスのようなプロジェクトですね。メンバーは5〜6人が本業と兼務しながら、緩い役割分担でやっています。

――なるほど。このうちサッカーに関しては、最初にアプローチしたのはJリーグだったそうですが、どんな理由があったのでしょうか?

里崎 サッカーという領域で考えた場合、クラブチームであったりスポンサーであったり、あるいはリーグを束ねるJリーグや日本サッカーを統括するJFAなど、いろいろなプレーヤーがいる中で、どこから攻めるべきかを検討しました。確かにクラブチームというのは目に見えて分かりやすいのですが、いくつかヒアリングしてみると、ニーズはあるものの金銭的には厳しいものがあると。むしろ、新たなビジネスチャンスが生まれるニューフロンティアとして考えた場合、おのずとJリーグに絞られていった感じでしたね。

──確かに、それぞれのクラブのコンサルをするよりも、本丸であるJリーグにアプローチしていった方が、ビジネスチャンスも広がっていきそうですね。実際、Jリーグに対しては、どんなアピールをしたんでしょうか?

里崎 われわれのようなグローバルファームがサービスを提供させていただく場合、「面で展開できる」という強みがあると申し上げました。何しろグループ内に約9900人のスタッフがいますので、掘り出していけばいろんな人材が出てきますし、これまで培ってきたノウハウもあります。そういったところから、「ベストプラクティス(最も効率のよい方法)」を提示できるでしょうし、それをきちんとJリーグに合った形にカスタマイズして提案することができるはずですと。そのあたりについては、自信がありましたね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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