岡田オーナー、新シーズンは“現場復帰” 興味深いFC今治「方針発表会」の内容

宇都宮徹壱

来年の夏に5000人収容のスタジアムが完成

新スタジアムの建設予定地でのフォトセッション。来年夏、5000人収容の施設が完成 【宇都宮徹壱】

 次に、新スタジアムの建設プランについて。現在、今治がホームゲームで使用されている桜井海浜ふれあい広場サッカー場は、ピッチが人工芝である上に常設のスタンドがないため、来季昇格できたとしてもJFLの試合を開催することはできない。昇格のミッションに付随して新スタジアムの確保は、今治にとっての喫緊の課題であった。そこでクラブは、「今治市の市有地」を無償で借り受け、そこに5000人収容のサッカー専用スタジアムを建設することを発表した。「今治市の市有地」とは、今回の方針発表会が行われた、今治新都市スポーツパーク。現在はテニスコートと管理施設があるだけだが、斜面を切り開いて造成した高台に、来年夏にはJ3仕様の新スタジアムが完成する予定だ。

「順調かって? こんな短期間でできるものなんだ、という感じだね。オレの思いつきから始まって、(今治)市役所のサッカー好きの人たちが『ここにこういう土地があるから、こうしたらどうでしょう』と絵を描いてくれた。そしたら土地はタダで貸してもらえることになって『それなら、われわれは自腹で(スタジアムを)建てられますよ』と申し上げたら、議会の人たちがどよめいて(笑)。『FC今治がそのくらいの覚悟もあるんだったら、市としてもやらなきゃいけない』というムードに変わったね」

 岡田オーナーによれば、スタジアム建設に必要な資金調達はすでにできているとのこと(具体的な金額は現地点では明らかにされていない)。ここで着目したいのが、近隣にイオンモールが今年4月にオープンすることだ。「お互いにシナジーをもってやりたいということを提案していた。フットサルコートを作るのもいいし、あるいはウチのサッカースクールにお子さんを預けたお母さんが、その間に買い物をしたりお茶を飲んだりしているとかね。そういった人の流れを作りましょう、という話はしています」と岡田オーナーは語る。

 一方で気になるのは、J3からさらに上を目指す場合である。J2開催には1万人、J1開催には1万5000人のキャパシティーが必要。方針発表会では、担当者が増築の可能性を示唆していたが、岡田オーナーの考えは違っていた。

「増築は難しいというのがオレの考え。スタンドだけの問題ではなく、放送ブースとかドーピングルームとかさまざまなスペックが必要になってくる。そうなると、いったん全部潰さなければならないくらい大変なことになるんですよ。だからここ(スポーツパーク)の空き地に、1万5000人収容の新たなサッカー専用スタジアムを作るということで、すでに議員さんたちも乗り気になっている。タイミング的には7年後(2023年)くらい。東京五輪が終わって、建設コストも下がるだろうし。ただ、とんとんとJ2に上がっていったら、もう少し前倒しになるかもしれないね」

グローバル事業の壮大なプランとリスク

杭州緑城の練習施設。岡田監督(当時)とクラブ会長のポスターが貼られてあった 【宇都宮徹壱】

 そして、杭州緑城との提携について。今治は今季の予算を「3億円弱」としている。昨年からおよそ1億円の上乗せ。そのほとんどが、杭州緑城との提携を中核とするグローバル事業によるものだ。具体的な提携の内容は、どのようなものか。

「現在、向こうの育成チームに6人の指導者を送り込んでいる。それで先日、現地に行ってきたら『中日国際サッカー学校』を作りたいという新たな提案を受けました。杭州緑城が持っているサッカー学校のメソッドを日本式にして、指導者も全員日本人にして、第二外国語で日本語を学ばせる。今は12学年あるんだけれど、1学年ずつ今治に連れて来て日本語とサッカーの合宿をする。そういう壮大なプランなんですよ」

 周知のとおり岡田オーナーは、12年から13年の2シーズン、杭州緑城で監督を務めている。今オフの「爆買い」が何かと話題になった中国リーグだが、杭州緑城は育成に力を入れる稀有なクラブであり、日本式の育成メソッドを取り入れるべく三顧の礼をもって岡田監督を迎えた経緯がある。その後も岡田オーナーは杭州緑城とのアドバイザリー契約を継続しており、これがグローバル事業に生かされている。ただし、一方で気になることも。

「やっぱりチャイナリスクというものは考えないといけない。現状では(グローバル事業が)ウチの売上の3分の2くらいになる可能性があるけれど、為替のリスクだったり『やっぱりやめた』と言われたりしたら、全部が吹っ飛んでしまうからね。向こうは10年契約したいって言っているけれど、そこは慎重な経営判断が求められますよ」

 最後に、経営に関してもう一点。岡田オーナーは今季から「危機感を共有してもらうため」にこれまで自身が一手に担ってきた仕事をスタッフに任せることにしたという。クラブオーナーとしての激務から少し開放されたことで、現場にも関与できるようになった。16年というシーズンは岡田オーナーのみならず、FC今治というクラブにとっても試される一年となりそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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