佐藤寿人が語る出場時間への葛藤 監督との衝突で気が付いた役割
昨シーズンの佐藤はフル出場がわずかに1試合、平均出場時間数は約64分にとどまった 【(C)WOWOW】
以上のような表現でまとめてしまっても、何ら間違いではない。実際、佐藤は昨シーズンに関して、「優勝することの喜びは、個人で結果を出すことの比ではない」と述べている。
しかし、昨シーズンに関してはそれ“だけ”でもないだろう。というのも、佐藤の昨シーズンはフル出場がわずかに1試合、平均出場時間数は約64分だ。
ほとんどの試合で、急成長を遂げた浅野拓磨との交代を余儀なくされ、試合終了のホイッスルをベンチで迎えている。それ自体が多いのか少ないのかは議論が必要とはいえ、これほどの実績を持つ選手にとって、簡単に受け入れられるものではないだろう。
だが、佐藤は受け入れた。そうでなければ、広島が3度目のリーグ優勝を手に入れることは極めて難しかっただろう。そしてまた、必ずしも簡単に受け入れたわけではないようだ。彼のこれまでの波瀾(はらん)万丈のキャリアを象徴するように、伏線は一昨年に張られていた。
彼ほどのキャリアを持つ選手が、どのようにして平均64分の出場時間を受け入れたのか? 佐藤に直接話を聞いた。
考え続けた自分を生かすすべ
昨シーズンにおいて佐藤はJ1通算最多得点タイ記録・12年連続2桁得点という成績を残した 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】
周りの声が耳に入るという以前に、自分自身で「できないだろう」と思っていました(笑)。クラシックな1トップのイメージは、背が高く、屈強でポストプレーのうまい選手がボールを収めるというものでした。「得意としていないプレーをやらなければならないのかな」と最初は思いました。
2トップを組んでいた時も、どちらかといえばポストプレーのうまい選手が(パートナーで)いて、自分はその周りを衛星のような形で動いて、スペースをうまく使う。どちらかといえば動きを作ってもらい、それに対して次のアクションでそのスペースを使うというタイプでした。
しかし1トップになると、自分が最初にアクションを起こす必要がありますし、ゴールに直結する動きだけでなく、時には引いて受ける役割もしなくてはいけません。「まあ、自分には無理だろうな」というのが頭にありました。
ただ当時のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現・浦和レッズ)に言われたのは、「なにもポストプレーを求めて、お前を1トップにしているわけではないんだ」という一言。この一言があったからこそ、自分が持っていた1トップに対する概念を取り払い、なぜこのポジションに置かれているのかを理解できました。やれることをやりながら、同時進行で起点となって周りをうまく使う。それを覚えなければならないと思いましたし、そういう指導を受けました。
すぐに「あれをやれ、これもやれ」と言われたら、パニックになって自分の良い部分も出せなかったと思います。ペトロヴィッチ監督が、自分の個性を尊重しつつ、足りない部分は慣れてきたら徐々に要求してくれた。監督の親心があったからこそ、1トップの役割を学び、結果を出していけたのだと思っています。