服部勇馬のキャプテンシーが光る東洋大 チーム力で箱根駅伝の王座奪還を

石井安里

新たに加わった“諦めない粘り”

11月の全日本大学駅伝で初優勝を飾った東洋大の「チーム力」はいかにして高まったのか 【写真は共同】

 11月の全日本大学駅伝で悲願の初優勝を遂げた東洋大。酒井俊幸監督が「走力とチーム力はイコールではない」と話すように、10月の出雲駅伝優勝校で、走力の高さ、選手層の厚さから本命視されていた青山学院大をチーム力で抑えた。東洋大は2011年の箱根駅伝で、早稲田大に大会史上最少の21秒差で敗れて以来、「その1秒をけずりだせ」をスローガンに掲げ、1秒を大切に、攻めの姿勢を貫いてきた。今季もそのチームカラーは変わらないが、全日本での各選手の走りから、これまで以上の気迫、勝利への執着心を感じ取った人も多いのではなかろうか。

 1区のエース・服部勇馬主将(4年)は先頭争いから一度は離されかけたものの、ラスト勝負で逆転。青山学院大、早稲田大と同タイムながら区間賞を獲得した。すると、2区で後続を引き離した弟の弾馬(3年)も、残り200メートルからもう一度切り換えて、目の覚めるようなスパート。3区で区間賞を獲得し、大会のMVPに選出された口町亮(3年)や、青山学院大との一騎打ちとなった4区以降の選手たちも同様だ。特に6区の野村峻哉(2年)は、日本インカレ10000メートル7位の実力者・渡辺心(青山学院大4年)に一度差を広げられたが、ラストスパートで一気に抜き去り、中継所では10秒差をつけた。チーム全体として、昨季までの1秒をけずりだすスピリットに、諦めない粘りが加わった印象だ。

 全日本の勝因について選手たちは、「絶対に勝つのだという気持ちが、これまで以上に強かった」と口をそろえる。普段は寡黙な選手でも、大会前には「勝ちたい」とはっきりと言葉に出していた。駅伝を走ったメンバーに限ったことではない。「全員が1秒をけずりだす努力をしてきた」と服部勇が話すように、部員全員が勝利への意欲を共有し、自分にできる努力と行動で盛り立てた。その背景にあるのは、最上級生たちのチーム作りだ。

「ただ走るだけでは付いてきてくれない」

 前回の箱根が終わった翌日、1月4日に新チームが発足。まず、着手したのは寮生活を見直し、上級生と下級生の間の風通しを良くすることだ。4年の寺内将人は、「自分も1・2年生の頃、4年生に声を掛けてもらえるのがうれしかった。だから同じように、4年生から下級生に声を掛けるようにしました」と、先輩・後輩の壁をなくしていった。組織である以上、最低限の礼儀は守りながらも、後輩から先輩へのあいさつを簡略化。自然なあいさつ、声掛けから生まれるコミュニケーションを尊重してきた。

エースで主将の服部勇馬が下級生や故障者とも寄り添うことで、周りも変わっていった 【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】

 服部勇のキャプテンシーも光る。主将に就任した当初は、走りでチームを引っ張ろうとしていたが、その後に故障して、出場予定だった2月の東京マラソンを断念。3月いっぱい走ることができず、グラウンドの外から部全体を眺めると、「ただ走るだけでは、実力が下位の選手や故障者は付いてきてくれない」と気づかされた。そこで、下位の選手たちには走力を上げられるように、故障者にはケアについてアドバイス。東洋大では定期的に採血を行い、そのデータを読み取って自分の体を把握するようにしているが、服部勇は自身のデータのみならず、他の選手の血液状態も見て、足りない点やケアの重要性を説いている。

 学生長距離界トップクラスの力を持つ主将が、自分の競技だけに集中するのではなく、下級生や故障者とも寄り添い、共に苦難を乗り越えていけば、彼らの士気も高まる。そしてそんな主将の姿を見れば、他の4年生も変わる。副将の上村和生(4年)は、「『自分もやらなければ』と思うようになった」と話す。服部勇はこの1年間で一番うれしかった出来事に、「周囲の4年生が支えてくれたこと」を挙げた。4年生が1つになることで、チーム全体にも一体感が生まれた。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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