服部勇馬のキャプテンシーが光る東洋大 チーム力で箱根駅伝の王座奪還を

石井安里

弾馬にはあえて突き放すことも

9月のインカレで海外勢を破り優勝した服部弾馬。学生界を代表するランナーへと成長を遂げた 【写真は共同】

 かつて服部勇に励まされた選手も、箱根のエントリーメンバーに入った。堀龍彦(2年)は昨秋、膝の手術のため、入院中の病院で全日本をテレビ観戦した。レース後に服部勇から「来年は一緒にこの舞台で走ろう」とメールをもらい、その通りに今年の全日本で7区の区間賞を獲得した。2年時に肺気胸で、3年時には足の故障で、2年続けて10月31日に手術をした湯田晟旭(4年)も、服部勇から「つらいかもしれないけど、最後まで諦めずに頑張ろう」と励まされ、本当にうれしかったという。選手、スタッフの誰か1人でも欠ければ、チームは成り立たない。チームに絶対必要な存在なのだと、服部勇は彼らへ伝えたかったのだろう。

 さらに弟の弾馬に対しても、今季は大きく羽ばたいてもらうため、接し方を変えた。練習面などで自ら考えて行動できるように、常にアドバイスを与えるのではなく、時にはあえて突き放すこともあった。願い通りに弾馬は自立し、学生屈指のスピードランナーへと成長。服部兄弟は仲が良いことで知られているが、ただ仲が良いだけではなく、競技者として互いを尊敬し合える間柄になった。キャプテン・服部勇馬は、このように各選手に合った接し方、言葉で、信頼関係を築いてきたのだ。

集大成の箱根で王座奪還へ

“谷間世代”とも呼ばれた現在の4年生だが、服部勇、上村和生(写真)ら8人もの選手がエントリー登録された 【写真は共同】

 東洋大は近年、総合力と結束力で想像を超える強さを発揮してきた。来年1月の箱根駅伝では、2年ぶり5度目の総合優勝に挑む。走力では前回王者の青山学院大が一枚上だが、酒井監督はそれを認めた上で、「1枚、1枚の有効打を生かせるように、主導権を握りたい。優勝するには、競り合いに勝つこと」と、全日本のようにチーム力で競り勝つ駅伝を目指している。

 3年連続2区が濃厚な服部勇は、「全日本とは違う自分を見せられると思う」と話すほど順調な仕上がりで、日本人選手で史上4人目の1時間6分台を視野に入れる。兄弟エースとなった服部弾、練習で服部兄弟に食らいついている櫻岡駿(3年)の走りが鍵を握るだろう。寺内、五郎谷俊、渡辺一磨ら4年生をはじめ、1年生も好調。2区の服部勇でトップに立って3・4区で差を広げ、5区を1時間20分前後でまとめれば、往路を好位置で折り返すことができる。復路の選手層に自信を持っているだけに、往路を理想の展開で終えれば勝機はある。

 今回のエントリーメンバー16人のうち、半数の8人が4年生。「こんなに入るとは、1年生の頃には考えられなかった。勇馬を先頭に頑張ってきたからだと思う」と上村。人間味あふれる主将を個性豊かな4年生たちが支え、下級生はその背中を追いかけてきた。「頂点への再出発」をテーマに絆を深めてきた1年の集大成を、王座奪還で飾れるか。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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