青森山田が手に入れた「総合力」 苦しみを昇華させ選手権へと挑む

安藤隆人

僅差で逃したプレミアリーグ優勝

プレミアリーグ最終戦でFC東京U−18に勝利を収めた青森山田だったが…… 【安藤隆人】

 タイムアップの瞬間、ピッチにいた青森山田高校の選手全員が、ベンチに目をやった。ベンチにいた正木昌宣コーチが、彼らに向かって「×」のジェスチャーをした瞬間、選手たちは大きくうなだれた。

 12月6日に行われた高円宮杯U−18プレミアリーグイースト第18節、勝利を収めたのは青森山田の方だった。しかし、ピッチに喜びの姿はなく、膝に手をつく選手、眼にうっすらと涙を浮かべる選手……。重苦しい雰囲気が漂った。

 青森山田は残り2節となる第16節まで首位をキープしていた。第17節の2位・鹿島アントラーズユースとの直接対決で、勝利すれば優勝が決まっていたのだが、0−1の敗戦。首位の座を鹿島ユースに明け渡してしまった。そして迎えたFC東京U−18との最終戦。勝ち点差1で2位となった青森山田は、この試合に勝利すれば、同時刻に行われる市立船橋vs.鹿島ユース戦で、鹿島ユースが引き分け以下で逆転優勝となる。もし鹿島ユースが敗れれば、自身は引き分けでも逆転優勝が決まるシチュエーションだった。

「鹿島の結果を気にしながらサッカーをやってはいけない。あくまでも最後まで目の前の相手に集中して、全力で勝利をつかまないといけない」

 黒田剛監督は変な雑音を入れまいと、FC東京U−18に真っ向から向かっていくことを選手たちに伝えていた。そして、選手たちそれに100%の力で応え、2−1の勝利をつかんでみせた。

 その末の、残酷な結末だった。鹿島ユースが市立船橋に2−1で勝利を決めた瞬間、鹿島ユースの優勝と青森山田の2位が確定した。

「ベンチに目をやったら、あのジェスチャー。本当にショックでした。『鹿島ユース戦で引き分け以上だったら……』とか、『あの試合を落とさなければ……』とか、ネガティブなことが頭をよぎった」

 キャプテンの北城俊幸が口にしたように、試合終了間際で追いつかれた第14節の札幌U−18戦(1−1)など、悔やまれる試合もあった。しかし、逆に青森山田が脅威の粘りを見せてつかみ取った試合もある。第13節の市立船橋戦も89分まで0−1でリードを許したが、90分、後半アディショナルタイム3分に立て続けにゴールし、2−1の逆転勝利。第15節の大宮アルディージャユース戦でも終盤に追いついて、アディショナルタイムに逆転(2−1)。最後まで運動量が落ちずに、質の高いプレーと連係を続けて来た結果であった。

強豪とは呼べないインターハイでの戦い

 優勝には届かなかったが、間違いなくこのリーグを通じて青森山田は強くなった。特に夏以降は。

 プレミアイーストでは安定した戦いを見せていた青森山田だったが、夏のインターハイではそれが嘘のようなプレーの連続だった。

 初戦となった2回戦の久御山戦。相手は1回戦で優勝候補の桐光学園を破った勢いもあってか、立ち上がりから青森山田に臆することなく、攻撃を仕掛けてきた。これに対し、住永翔と高橋壱晟の2年生ダブルボランチが、この勢いに完全にのまれ、いつもの息の合った連係が失われ、ズルズルとラインを下げていく。さらに、ベガルタ仙台への加入が内定しているセンターバック(CB)の常田克人も、コーチングなどでチームをコントロールできず、より連係が失われていく。湘南ベルマーレ加入内定のトップ下の神谷優太との距離が遠くなり、神谷もまたボールを持ったら無理に仕掛け、相手の守備網に引っかかるという、悪循環に陥った。

 結果は1−2の敗戦。「まったく良いところが出せなかった。完全にのまれてしまっていた」と住永がコメントをすると、神谷も「何もできないまま終ってしまった。青森山田の10番を背負っている人間が、まったくその責務を果たせなかった。何をやっているんだと腹立たしいくらいです」と唇を噛んだ。

 タレントはいる。青森山田が全国トップレベルの実力であることは、プレミアリーグに参戦していること自体で証明している。しかし、どんな相手でも力を発揮できる。誰が出ても力が発揮できるという、「真の強豪」の要素が足りなかった。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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