“ビッグ4”から学ぶ錦織圭の成長 変革を恐れず、視線はすでに来季へ
ジョコビッチと「すごく差は感じた」
ジョコビッチ(右)に完敗した錦織。「すごく差は感じた」と、王者の強さをたたえた 【Getty Images】
2015年シーズンの締めくくりの大会となる“ATPワールドツアーファイナル”の初戦。世界ランキング1位のノバック・ジョコビッチ(セルビア)に1−6、1−6のスコアで敗れた後、錦織圭(日清食品)は素直に王者の強さをたたえた。
この試合の錦織のプレーは、そこまで悪いわけではなかった。サーブに苦しみ50%以下しかサーブでポイントを獲得できなかったが、ストロークは速く深く相手コートに幾度も刺さる。しかし「ディフェンスが攻撃のように鋭く返ってきた」と錦織が振り返るように、錦織が鋭いショットを深く打ち込もうとも、ジョコビッチは柔軟な体を目いっぱい伸ばし追いつくと、より鋭角に、より速いストロークを打ち返す。攻守一体となったプレーはまるで、砲台を擁する動く要塞。
「すごく隙がなく、どのショットもバランスを崩さず打ってくる」
「彼が素晴らしいのは、安定感。全てのトーナメントで良い結果を残している。それに彼は常に集中している。間違いなく、現在最も強い選手。しかも毎年、全ての面で改善している」
世界1位について語る錦織の言葉には、畏敬にも似た賛辞が並ぶ。「すごく差は感じました」。虚勢を張るでも卑屈になるでもなく、錦織は真摯に、彼我の戦力差を受け止めた。
一方のジョコビッチも、「今日は今季でベストに数えられる試合をした」と満足げに振り返る。
「圭はツアーで最もスピードがあり、才能があり、攻めるのが好きな選手。しかし僕は、彼に好きなようにプレーさせなかった。サーブを効果的に決めた。セカンドサーブでも、いろんな球種を混ぜることを心がけた。同じボールを2度打つことをしなかった。常に変化をつけるようにし、その戦術がうまくいった」
結果的にワンサイドになったこの試合は、ジョコビッチの入念な錦織対策が機能した結果でもあった。
フェデラーには負けたが「楽しめた」
対戦を控え、錦織がそう表情を引き締めた「彼」とは、ロジャー・フェデラー(スイス)である。錦織が「憧れ」だとはばかりなく公言する、“史上最高”のプレーヤー。今年で34歳を迎えるが、「素晴らしい動きをするので34歳には全く見えない。今でもプレーを変えて進化している」と錦織は評する。
「個人的な意見としては、圭は見るのが最もワクワクする選手だ」
フェデラーは錦織について、そう言った。尊敬する選手が自分に向けた言葉を伝え聞いた錦織は、「うれしいですね。本心か分からないけれど」と苦笑しつつ、「今でも彼と対戦するときは、初めて対戦したときのようにワクワクする。最近では勝つ気持ちでもいけているし、どれだけ通用するのか試せる点が楽しみ」と顔を輝かせた。
「憧れ」のフェデラー(左)にはフルセットの末に惜敗。それでも「楽しめた一戦」と充実感をにじませていた 【Getty Images】
「久しぶりに、負けはしたけれど楽しめた一戦でした」
フルセットの敗戦後、ある種の充実感をにじませて錦織は言う。ここ数カ月の「モヤモヤ」を振り切り、遊び心にあふれたテニスを彼に取り戻させてくれたのは、少年時代からそのプレーに魅せられた憧れの存在だった。思えば9月の全米オープン初戦敗退後……部屋から出る気も起きぬほどに落胆していた彼を再びテニスに向かわせた一つの契機は、全米のコートで躍動するフェデラーをテレビで見たことだったという。