錦織、今季51勝12敗が意味するもの 過密スケジュールでも光る安定感

内田暁

過酷なシーズンを送る錦織

上海マスターズを3回戦敗退で終えた錦織。これまでの今季の戦いを振り返る 【Getty Images】

 51勝12敗――それが今季の錦織が、先週の楽天ジャパンオープンを終えた時点で残した戦績である。これは大躍進の年となった昨年の同時期の、49勝10敗をわずかに上回るペース。ちなみに2013年は、シーズンを全て終えての通算戦績が36勝19敗、2012年は37勝18敗である。これらの数字は、今の錦織がいかに過密で過酷なシーズンを送っているかを、顕著に示すものだろう。

 もちろん、過酷な日々を過ごすのは錦織に限ったことではなく、ほとんどのテニスプレーヤーは、年間約20前後のトーナメントに出場している。これら20大会のうち、グランドスラムの4大会や一部のマスターズ1000は2週間に及ぶので、少なくとも25週前後はトーナメント期間に身を置くことになり、しかもその合間を町から町へ、国から国への移動でつないでいくのである。ここに加えてトップ選手たちは、スポンサー関連のイベントや、エキジビションマッチへの出場なども多くこなす。また、シーズンを通して体力を維持しつつ技術面の微調整や改善を図るため、過密なスケジュールの合間を縫ってトレーニングや練習も重ねていかなくてはならない。

試合数が増えるのは宿命

 選手に与えられる“世界ランキング”は基本、過去1年の間に出場した18大会の結果……すなわち成績に応じて獲得したランキングポイントによって算出される。また、出場が義務づけられているグランドスラムやマスターズ1000などの一部の大会を欠場した場合は、罰金などのペナルティが課されることもある。何にもまして、選手にとって多くの大会に出場しランキングを上げるのが重要なのは、この数字により出場できる大会や、大会で得られるシード順が既定されるからだ。

 錦織のようなトップ10プレーヤーにとって、ランキングが果たす最も大きな意味合いは、シード順。もしランキング8位以内に入っていれば、それはグランドスラムなどの大きな大会でも、準々決勝までは自分より上位の選手と当たらずに済むことになる。4位以内なら、準決勝までは下位との対戦が約束される。今季の錦織は「グランドスラムやマスターズ1000など、大きな大会でも結果を残していきたい」と言っていたが、そのためにはランキングの上位維持も、絶対的に欠かせぬ要素となるのだ。

 実力が上がりトーナメントでも常に上位進出するようになるにつれ、試合数が増えていくのは必然であり、上位選手の宿命だ。世界ランキング1位のノバック・ジョコビッチ(セルビア)は今季、出場大会数を最低限まで絞っているが、それでも10月12日時点で68勝5敗と圧倒的な戦績と試合数を重ねている。これはトップ10全選手の中でも、最も多い数字である。ついで現在2位のアンディ・マレー(イギリス)も、今季ここまで61勝10敗。ちなみに3位のロジャー・フェデラー(スイス)は53勝8敗だが、以降、4位のスタン・ワウリンカ(スイス)は48勝13敗、そして5位のトマシュ・ベルディヒ(チェコ)は49勝17敗と、いずれも勝ち星では錦織を下回っている。錦織のライバルと目され、錦織本人も「メディアの皆さんにも言われるので、(ライバルとして)意識する」と苦笑いするミロシュ・ラオニッチ(カナダ)は、現在9位で31勝15敗。このように周囲の選手と比べても、錦織がいかに心身ともに過酷なシーズンを、トップ選手に相応しい成績と足跡で戦い抜いているかが分かるだろう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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