指導者のキャリアを歩み始めた宮本恒靖 恋しくなった現場に漂う「勝負の雰囲気」

スポーツナビ

今年からG大阪のアカデミーコーチに就任した宮本恒靖に、育成について話を聞いた 【スポーツナビ】

 宮本恒靖は2011年の引退後、FIFA(国際サッカー連盟)とCIES(国際スポーツ研究機関)が共同で運営する修士課程「FIFAマスター」を受講し、JFAの国際委員やJリーグの特任理事を務めるなどサッカーの現場を少し離れてキャリアを積み重ねてきた。現在もボスニア・ヘルツェゴビナにスポーツアカデミーを設立するなど、活躍の場を広げる一方、今年からはガンバ大阪アカデミーのU−13コーチに就任し、現在はS級ライセンスの講習を受講している。

 宮本はなぜこのタイミングで指導者としてのキャリアを歩みはじめたのだろうか。育成の現場を経験してどんなことを感じたのか。現役時代には日本代表のキャプテンとしてチームをけん引してきた男はどんな将来を見据えているのか話を聞いた。

アカデミーコーチに就任した理由

体が動くうちに指導者になりたいという思いから、アカデミーのコーチに就任した 【写真は共同】

――G大阪のアカデミーコーチに就任した経緯を教えてください。

 S級ライセンスを取得するにあたって、日常的に子どもたちやチームを持って教えるということをやりたかったんです。最初は自分がジュニアユース年代のU−13の選手たちを指導するというイメージはなかったんですけれど、相談をした時に「13歳をやってみるとすごく鍛えられるし、面白いからやってみろ」と言われたのが去年の11〜12月くらいですね。そこからやってみようと思いました。

――これまでも視野を広げるという目的からいろいろとチャレンジされてきたと思います。このタイミングでS級ライセンスを取りたいと思ったきっかけはあるのでしょうか?

 現役中からライセンスを取りにいっていましたし、いつかコーチングをやるということは決めていたけれど、そのまま(現役を)まっすぐに終えて(コーチングの道に)向かうとは思っていませんでした。

 視野を広げる取り組みを挟みつつも、もう一回そこに戻るときというのは体がまだ動くうちという思いがありました。実際にプレーを見せて教えることができるのはあと10年もないと思う。そのなかで自分が今教えられることもたくさんあると思いますし、自分が17〜18歳の時に教えてもらったコーチ(上野山信行/現アカデミー本部・強化本部担当顧問)のプレーというのは今でも覚えています。そこが自分の基準です。

――ご自身もG大阪ユース出身ですが、当時と比べて変わったと思うことはありますか?

 環境面は変わりましたね。当時の僕らは芝生ではなく土のグラウンドでやっていた。ナイター照明は付いていましたけれど、高校1年の途中まではナイター照明もなかったですね。今はロッカーもあるしスパイクも提供してもらえる。育成に対する各クラブの意識も変わってきましたからね。

――一方で当時と変わらないところはどんなところですか?

 プレースタイルについては基本的なところでは変わっていないと思います。相手を攻撃的なサッカーで圧倒するというところもそうですし、ボールを奪う哲学という部分では、自分達がガンバアカデミーの1期生として始めた頃とベースにあるものは変わらないです。

現場で感じたことと描く理想

宮本はジーコ(左)らプロとして接してきた監督から刺激を受け、自分なりの指導を目指している 【写真は共同】

――コーチになって難しいなと感じたことはありますか?

 選手は中学1年なので、例えばプレーを止めてその意図を問うと、それに答えられる選手もいれば、答えに窮する選手もいます。彼らの意図をどう引き出すか。プロではないので、何をモチベーションとして与えるべきなのかもありますね。あとは学校行事との兼ね合いとか、練習のやりくり、遠征のスケジューリングなど細々したことは初めて経験しましたね。

――同時にS級ライセンスの研修を受けていますし、多くの指導者の方から指導を受けてきたと思います。指導する中で影響を受けた人はいますか?

 研修や一緒に受講している人からの刺激もありました。プロとして接してきた監督、西野(朗)さんとか早野(宏史)さん、(フレデリック・)アントネッティや(ヨジップ・)クゼにジーコとか(フィリップ・)トルシエを見ている中で、自分なりにこうかなと思うところをやっています。

――それはどんな指導なんでしょうか。理想の形はありますか?

 育成のコーチとしての理想は、サッカー選手としてはもちろんのこと、日常生活でも起こっていることを理解して、判断し、行動に移していける人間を育てることだと思っています。ピッチ上では、今は守らなければいけないのか、攻めるべきなのかということから始まって、戦術的なことも含めてです。だって監督がいちいち選手に言えないじゃないですか。それを自分で考えられる選手に、(今見ている子どもたちにも)早くなって欲しいですね。

――現状では、まだまだできていないということですか?

 いや、成長の途上にあると思います。自分で行動しようとしている選手はいますし、その芽を摘みたくないと思っています。だからミスをした時に、なぜミスになったのかというのはこっちが言わなければいけないけれど、アイデアのところまでを消さないようにしています。彼らのアイデアを認めてあげた上で、例えば判断する順番を逆にしていたら対応できることもあるよねっていうことを教えることもあると思うので。

「お前はなんであんなプレーをしたんだ」という感じで接していては、自分の中にあるアイデアが少なくなっていくと思います。それでは言われたらやりますという選手ばかりになっていく。それは日本人選手の良くないところです。「監督教えてくださいよ」ではなくて「自分で判断してやれよ」と。やらないといけない場面が多々あると思います。

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