涙が意味する、各々の「箱根駅伝」 言い訳無用の真剣勝負が生むもの

宝田将志

盛り上がりを見せる予選会 これも「箱根」

創部5年目で、箱根駅伝本戦への初出場を決め歓喜に沸く東京国際大 【赤坂直人】

 スポーツで勝ってうれし泣きできる人間は、一体どれくらいいるだろう?
 顔を真っ赤にしながら目頭を拭う東京国際大の選手を見て、そんなことを考えていた。

 10月17日、東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝/2016年1月2、3日)の予選会が、東京都の陸上自衛隊立川駐屯地から国営昭和記念公園にゴールする20キロのコースで行われ、創部5年目の東京国際大は9位に入り、初めて本戦の出場権を獲得した。

 今、箱根駅伝の予選会は活況を呈している。

 あいにくの雨模様だったにも関わらず、この日、昭和記念公園には各大学のOB、選手の父兄、選手のクラスメート、駅伝ファンとみられる人たちが多く応援に駆け付けていた。主催者によると、観衆は2万8415人。前年は3万5145人もの人たちが足を運んだ。
 なお、陸上日本一を決める今年の日本選手権は、6月26〜28日の3日間、新潟市で行われたが、延べ入場者は約4万6000人(26日6500人、27日2万3000人、28日1万5000人)。入場料の違いなどはあるにせよ、いかに「関東の大学による駅伝の予選会」が盛り上がりを見せているかが分かる。3年前からは日本テレビが地上波で生中継を始めているほどだ。

 主催する関東学生陸上競技連盟(関東学連)の中には「予選なのだから、騒がず、もう少し大人しくやってはどうか」との意見もあるという。ただ、関東学連の日隈広至総務委員長は現状を「応援してもらえるのは、ありがたいこと。予選会にしか出られない大学にとっては、これが『箱根駅伝』。競技人口の拡大にも貢献していると思うし、裾野が広がらないと、トップレベルも上がらないだろう」と好意的に受け止めている。

1人1秒で明暗分かれるシビアな勝負

10秒、1人わずか1秒差で本戦出場を逃した国士舘大。選手が本気のうれし涙や悔し涙を流して、真剣勝負を挑んでいるの現実も忘れてはならない 【赤坂直人】

 予選会の歴史は長い。

 関東学連によると、正式な始まりは、今から60年前の1955年、第10回関東学生10マイル競走大会だという。それまではこの10マイル競走の成績をもとに、代表者会議などで箱根駅伝本戦の出場校を決めていたが、1955年から、同大会の出場選手8人の平均タイムで順位を争う方式になった。

 その後、65年には距離が10マイル(約16.1キロ)から20キロに変更。開催場所を検見川、八王子、大井埠頭と移し、2001年からは昭和記念公園での実施となった。

 1955年の関東学生10マイルは参加が21校だったが、箱根を目指す大学は増え続け、97年には54校まで拡大。そこで予選会に参加するための標準記録が設定された。
 今年は初出場の帝京平成大学を含む49校がエントリー。これは参加標準記録が設けられて以降、最多だった。現在、予選会は各校最大12人まで出場でき、その上位10人の合計タイムで争う方式になっている。

 今年は、予選突破ラインぎりぎりの10位だった上武大が10時間12分4秒。11位の国士舘大は10時間12分14秒で、その差はわずか10秒。1人あたり1秒の差で本戦出場が決まるというシビアな勝負だった。

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著者プロフィール

1977年、千葉県生まれ。産経新聞運動部記者。陸上、体操など五輪競技を担当。著書に『四継 2016リオ五輪、彼らの真実』(文藝春秋) Twitter:@takarada_sports

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