涙が意味する、各々の「箱根駅伝」 言い訳無用の真剣勝負が生むもの

宝田将志

東京国際大が積み重ねた努力の日々

各校がそれぞれの思い、努力を重ねて予選会に挑むことは、日本の未来にとってきっと悪いことではないはずだ 【写真は共同】

 各校の実力が拮抗(きっこう)する中、初出場の切符をつかんだ東京国際大。悲願達成のための練習には随所に「こだわり」があった。

 前回の箱根駅伝(15年1月2、3日)で優勝した青山学院大が「目標管理シート」を使って、選手の目標設定と振り返りを徹底していたことは知られた話だが、東京国際大も昨季の途中から、その手法を導入していた。

 ある日、主務の吉村玲亮が、青山学院大の昨年度の主務で熊本・九州学院高の先輩でもある高木聖也を食事に誘った。テーブルを挟んでチームづくりについてアドバイスを受ける中で、青山学院大の良い面を取り入れることを決めた。
 東京国際大では月1回のミーティングで、まず5人ずつの小グループになり、それぞれ互いの目標と振り返りを検証。具体的な内容となるよう修正を加えるなどした後、全員が見えるように選手寮に貼り出しているという。

 また、彼らの起床は午前5時すぎ。朝練のためである。従来、寮の門限は午後10時、消灯10時半だったが、松村拓希コーチの指導もあって、睡眠時間を確保するため、今年5月から門限9時、消灯10時に変更。競技に徹しようと努めている。

 今回、東京国際大が予選突破をできたのは、前述のような日々の積み重ねがあったからだ。

本気でうれし涙や悔し涙を流せる貴重な存在

 箱根駅伝について、近年、「“箱根”経由で世界に通用する長距離ランナーが出ていない」という声を聞く。「世界に通用するランナーを育成したい」という、金栗四三が箱根駅伝の創設に尽力した経緯を考えれば、看過できない大きな課題だ。

 また、一部には「大学の宣伝の一環だろう」と言う冷ややかな見方をする人もいる。

 それでも、箱根駅伝本戦だけでなく、予選会というレベルでも、多くの選手が本気のうれし涙や悔し涙を流しているという確かな現実が、ここにはある。
 今年、予選会に出場したのは577人。全員が世界のトップを目指すランナーではないだろう。中には大学で競技生活に区切りを付け、一般企業に勤める者、教職に就く者、スポーツ行政に携わる者、報道関係に進む者もいるかもしれない。
 スポーツの価値を示す意味でも、また、日本の未来にとっても、きっと悪いことではないはずだ。勝つにせよ、負けるにせよ、「言い訳無用の真剣勝負」を知る若者が増えていくということは。

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著者プロフィール

1977年、千葉県生まれ。産経新聞運動部記者。陸上、体操など五輪競技を担当。著書に『四継 2016リオ五輪、彼らの真実』(文藝春秋) Twitter:@takarada_sports

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