駒澤大・大八木監督が語る長距離の課題 若手選手のマラソン挑戦の意義とは?

折山淑美

2020年東京五輪が追い風に

2020年東京五輪には「今の大学2年生くらいから昨年大学を卒業したくらいの世代が中心にならなければいけない」と話す 【スポーツナビ】

 9回目となる東京マラソンが22日に開催される。大学生での初挑戦を決めた東洋大3年の服部勇馬は、アキレス腱痛のため出場を取り止めた。2016年のリオデジャネイロ五輪、そして20年の東京五輪にマラソンで挑戦するため、今から経験させておきたいと話していた東洋大の酒井俊幸監督の構想は足踏みとなったが、「残念だがマラソン練習をやったことは貴重な経験になったはず」と話していた。

 だが服部の挑戦は、以前から「選手たちにはスピードがある若いうちにマラソン挑戦をしてほしい」と話していた日本陸上競技連盟の宗猛男子中長距離・マラソン部長の期待にも沿うものだ。

 若手選手によるマラソン挑戦。その追い風はやはり20年東京五輪の開催決定だろう。
 駒澤大の大八木弘明監督も「(5年後の)東京五輪となると、今の大学2年生くらいから昨年大学を卒業したくらいの世代がちょうどいい年代。彼らが中心にならなければいけないし、その機運も盛り上がっている」と若いうちからマラソンに挑戦することを推す一人だ。

 大八木監督はかつて、大学4年の1999年3月に初マラソンに挑戦して2時間10分07秒の日本学生新を出し、翌年12月の福岡国際マラソンで2時間06分51秒の日本最高記録をマークした藤田敦史(現富士通コーチ)を育てた。今回、その大八木監督に当時の経験も踏まえ、若手選手のマラソン挑戦の意義や現実の課題、条件などを話してもらった。

1万メートル27分台の力があれば世界と戦える

99年に日本学生新を出した藤田敦史を育てた大八木監督は「日本のトップにはなるだろうな」と評価していた 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

「藤田の場合はもともとロードの方が好きだったし、マラソンしか頭になかったというのがありますね。スタミナ型だったのでとにかく走り込みをやらせたけど、その中で練習の一貫として走った1万メートルでも、卒業した年に自己ベストを28分19秒94まで伸ばしていますが、力的には27分台で走ってもおかしくなかったです。だから、大学の時から『多分、日本のトップにはなるだろうな』と思っていました」

 その年代はマラソンを意識する選手も多く、藤田の日本最高記録を引き金にし、諏訪利成(現日清食品グループコーチ)や油谷繁(現中国電力コーチ)、佐藤敦之(現京セラ女子陸上部監督)などが頭角を顕して結果も出していた。だが、マラソン低迷期にいる今の選手たちはすぐにマラソンで勝負するというよりも、スピードを重視する傾向があり、「トラックで記録を出し切ってからマラソン」という形になってしまっている。

 しかし大八木監督は、マラソンに挑戦したい選手には、そのイメージを覆して「1万メートルで27分台を出せるようになったらマラソン」という考え方を持って欲しいというのだ。
「中山竹通も27分35秒で走ってマラソンをやったから勝てていたし、森下広一(現トヨタ自動車九州監督)もあの頃は28分01秒で走っていたから世界に通用した。藤田もベストは28分19秒台だったけど、力的には27分台の選手にも勝つ状況でやっていたから2時間06分台が出たんだと思うんです。その意味では昔の瀬古利彦さん(現DeNAランニングクラブ総監督)や宗兄弟、中山の時代のように、マラソンに取り組みながらトラックで27分台を出すような形になってほしいですね。今の選手は27分台で走れるとトラックに重点を置いてしまい、スピードが無くなってからマラソン転向という形になっていますが、そうなるとスピード的な余裕もなくなるので、35キロ以降は外国勢に太刀打ちできなくなっているんです」

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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