大きな転機となり得るブラッターの失墜 大手スポンサーがそろって辞任を要求

スイスの検察当局が刑事捜査を開始

FIFAの大手スポンサーがブラッター会長の辞任を求める声明を発表。かつてない窮地に立たされた 【写真:ロイター/アフロ】

 永遠に来ることはないと思われていた時が、遂に訪れようとしている。数カ月前にFIFA(国際サッカー連盟)会長に再選し、新たに4年間の任期をスタートしたばかりのゼップ・ブラッターが1998年の会長就任以降、最大の窮地に立たされているのだ。

 すでにFIFA理事会の役員の多くがインターポールによって米国に身柄を拘束され、もしくは指名手配されている中、先日スイスの検察当局は不法な資金流用やFIFAに不利な契約を結んだ疑いがあるとして、ブラッターに対する刑事捜査を開始した(編注:8日に暫定的に90日間の職務停止処分を下したと発表)。

 これを受け、FIFAと大口のスポンサー契約を結ぶ大手企業が公に会長交代を要求したことは、大きな驚きをもって受け止められた。先週にはマクドナルド、コカコーラ、VISA、バドワイザー(すべて米国企業なのは偶然だろうか?)らがブラッターに即刻の辞任を求める声明を発表したが、これらのスポンサー企業はこれまで何度FIFAが汚職問題に揺れても不可解なまでに沈黙を保ってきたからだ。

 それだけでなく、例えばVISAはブラッターやジェローム・バルク元FIFA事務局長に取り入ることにより、ライバル企業のマスターカードからFIFAとのスポンサー契約を奪い取ることに成功している。最近出版されたドイツ人記者トーマス・キストナーの著書『FIFAマフィア』によれば、FIFAはマスターカードに対して契約の継続を要求する傍らで、VISAとも水面下で交渉を行っていた。そして2006年4月5日、ブラッターはマスターカードのロバート・セランダー社長(現CEO)に対し、すでにVISAとの契約が合意に達していたことを伝えた。

 その後マスターカードはこの件をマンハッタンの裁判所に持ち込み訴訟を起こしたのだが、この時ロレッタ・プレスカ裁判長は恐ろしいものを目の当たりにする。VISAから提出された契約書のサインは06年4月6日、すなわちブラッターがセランダーに「すでにVISAと合意している」と伝えた翌日に交わされたものだった。つまりこの書類はFIFAがマスターカードに嘘をついたことを証明するものだったわけだ。

 その後FIFAは4月3日付けのサインが入った別の契約書を裁判所に提出したものの、その書類にはVISA社長クリストファー・ロドリゲスのサインしか記載されておらず、他の書類とは明らかに異なるものだったという。つまりFIFAは契約書の偽造という重大な罪を犯したのだが、驚くべきことにその罪が問われることはなかった。マスターカードが告訴を取り下げたからだ。ほどなくFIFAはマスターカードに多額の補償金を支払うことで事なきを得たのである。

 フットボールに投資するスポンサー企業は総じて連盟やクラブの不正、汚職には目をつぶり、経済的な利益を優先するのが常だ。近年そうした理由でスポンサー側が契約相手との関係を悪化させるような行動を起こしたケースはほとんどなかっただけに、今回のブラッター解任要求は異例の出来事だと言える。

孤立無援、かつてない窮地に立たされた

捜査の手はプラティニUEFA会長(右)にも及んだ。次期会長選への影響も懸念される 【写真:ロイター/アフロ】

 またブラッターに渡った捜査の手は、2月26日のFIFA会長選挙における最有力候補と見られているミシェル・プラティニUEFA(欧州サッカー連盟)会長をも巻き込むことになりそうだ。

 プラティニは11年にブラッターから200万スイスフラン(約2億5000万円)の支払いを不正に受け取った疑いが持たれている。これは99〜02年にプラティニが行った“仕事”に対する報酬だと説明されているが、その詳細は明かされていない。スイス検察当局がFIFAから押収したコンピューター内の情報を検証している現状、プラティニは10月26日に締め切られるFIFA会長選挙への出馬が難しくなるかもしれない(編注:プラティニにも90日間の停職処分が下された)。

 コパ・アメリカのテレビ放映権の売買に関する収賄容疑で複数の役員がインターポールに逮捕されたスキャンダルに続き、9月半ばにはブラッターの右腕であるジェローム・バルクもワールドカップチケットの不法転売の容疑をかけられ、解任に追い込まれた。そして遂に自身も検察当局の捜査対象となったブラッターは、とうとうスポンサーからも見放される孤立無援の窮地に追いやられた。

 FIFAが得ている57億ドル(約6830億円)もの年間収益のうち、スポンサーから得ている収入は16億2000万ドル(約1940億円)にも及ぶだけに、ブラッターがその支持を失った意味は大きい。

 6月にブラッターと契約した米国の有力弁護士リチャード・カレンは、スポンサー企業から受けた辞任要求をやんわりと拒否し、ブラッターは辞める理由がないと考えていることを説明している。一大スキャンダルが発覚した5月には誰が見ても辞任を決意したと解釈できる会見を行い、その後さらに状況が悪化したにもかかわらず、ここにきて明確に続投の意思を示しはじめたのである。

 逮捕者続出の役員会は火の車で、右腕のバルクも失い、数年前まで自身の後継者として懇意にしていたプラティニとも対立し、スポンサーまで敵に回した。それでもブラッターは会長の椅子にしがみついているが、彼が40年間居座ってきたFIFAにおいて最悪の時を過ごしていることは間違いない。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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