FC今治が重視する育成と国際交流 『バリカップ』に込められた狙い
中国人記者も関心を示す『バリカップ』とは?
バリカップ開催前日に行われた歓迎レセプションでは、日韓中の子どもたちが笑顔で交流していた 【宇都宮徹壱】
さて今回の今治行きは、四国リーグではなく『バリカップ』という少年大会の取材が目的である。「バリ」とは今治の「バリ」を意味する。ちなみに、今治で毎年開かれる海事展覧会は『バリシップ』。今治のゆるキャラは『バリィさん』。いずれも今治を代表するイベントやキャラクターとして、今ではすっかり定着しているので、それらに倣ってのネーミングなのかもしれない。バリカップの前身は、20年以上の歴史を持つ『今越FC招待』という少年大会。これに特別協賛を付けて、FC今治のスタッフが全面的にサポートすることで、今年からバリカップとして新たなスタートを切ることになった。大会は、U−10からU−15まで4つの年代別に行われ、私が取材したのはU−12の大会である。
とはいえ私は、これまで育成年代の取材経験がほとんどない。にもかかわらず、このバリカップに興味を抱いたのは、FC今治がこの大会を「育成」のみならず「国際交流」にも重きを置いていたからだ。U−12の大会では、中国からは北京の越野FCが、そして韓国からは釜山アイパークU−12が、それぞれ参加。育成年代の大会で、海外からチームを招くことは決して珍しくはないが、あえて中国と韓国から招待していることにFC今治の(というより岡田オーナーの)「意志」が感じられる。もっとも、そう考えたのは私だけではなかったようだ。
大会前日、子どもたちを集めての歓迎レセプションを取材中、北京からやってきたというジャーナリストに声をかけられ、逆取材されるという予想外の展開となった。なぜ、ここに中国人がいるのか? この日は、柏レイソルと広州恒大によるACL(AFCチャンピオンズリーグ)の準々決勝が行われているというのに。すると若いジャーナリストは「岡田さんが今治で何をしようとしているのか、そちらのほうに私は興味があります」と言い切った。岡田オーナーが中国を離れてすでに2年が経過しているが、それでも現地のメディア関係者には熱心な岡田ウォッチャーは少なくないと聞いた。その証左を、まさかバリカップで知ることになるとは思わなかった。
会場で感じた、中国の育成環境の変化
中国の北京から招待された越野FC。ルァン・トゥミン監督も「オーガナイズが素晴らしい」と大満足 【宇都宮徹壱】
そんな中、際立った強さを見せていたのが韓国・釜山のU−12である。皆、体格がしっかりしていて、170センチくらいの長身選手も少なくない。組織力も技術力も練度が感じられ、やや図抜けた存在だった。聞くところによると、韓国では8人制サッカーはまだ導入されておらず、彼らはいつも11人制で試合をしているという。つまり日本で初めて8人制を経験するわけで、にもかかわらず最終的に優勝という成績を残したのだから大したものである。
もうひとつの招待チームである北京の越野は、体格では日本の子どもたちに勝るものの、釜山に比べるとまだまだ荒削りな感は否めない。それでも力まかせのサッカーではなく、ビルドアップとポゼッションを志向しているのが印象的だった。しかし、それ以上に興味深く感じたのが、中国でも育成の裾野が広がり始めているという事実である。
私は3年前に上海で、日本人スタッフが地元の子どもたちにサッカーを教えるスクールを取材したことがある。そこで耳にしたのは「中国の子どもたちは勉強や習い事で忙しく、スポーツをする時間がない」、あるいは「八百長のイメージが強いため、親は子どもにサッカーをさせたがらない」といったネガティブな話題であった。サッカーに限らず、中国でスポーツを続けられるのはエリートのみであり、グラスルーツの伝統はないというのが、これまでの私の認識であった。だが、そうした状況も変わりつつあるようだ。試合後、越野を率いるルァン・トゥミン監督に話を聞いた。
「確かに、スポーツをやらずに勉強ばかりしている子は、まだまだ中国では多いです。それでも、サッカーができるチャンスを探している子どもが多いのも事実です。今回、バリカップのお話をいただいた時に、私は子どもたちに外国でプレーするチャンスを与えたかった。と同時に、日本の文化についても学んでほしいと思っていました。この大会は非常によくオーガナイズされているし、日本や韓国の子どもたちと(サッカーを通じて)交流ができたので、とても満足しています」