FC今治に立ちはだかるライバルたち 四国リーグの3強、それぞれの思惑

宇都宮徹壱

全社予選に注目する理由

炎天下で試合に臨む選手たち。四国リーグの三つ巴状態が続く中、全社の出場権獲得が持つ意味は大きい 【宇都宮徹壱】

 どうやら台風12号は四国をすり抜けてくれたようだ。南国・高知の空は、目の覚めるような快晴。というよりも、密やかな殺意を含んだ強烈な日差しが照りつける。今日と明日のゲームは、いずれも炎天下でのキックオフとなるが、どうか事故のないように終わってほしいと願うばかりである。

 さて、FC今治が所属する四国リーグは、7月初旬でいったん中断期間に入り、8月を迎える間に天皇杯予選や全社(全国社会人サッカー選手権大会)予選を戦うことになる。今回、私が取材するのは、7月25日と26日に高知の春野総合運動公園で開催される全社予選。この大会には四国リーグで3強を形成する、FC今治、高知Uトラスター、アイゴッソ高知を含む8チームが参加している。この予選では、トーナメント戦2試合を戦い、最終的に2チームが今年の秋に岩手で行われる全社に出場する。

 この全社予選は、あくまでも四国代表を決めるためのもので、決勝戦は行われない(ちなみに試合は、予選も本大会も40分ハーフで行われる)。はっきりいって、注目度はそれほど高くはない。というよりも、わざわざ取材に来ているのは私だけという、よほどの物好きでないと見に来ないような大会だ。メディアの受付もなければ、メンバー表が配布されることもなく、撮影用のビブスはトラスターからお借りしたくらいだ。ではなぜ、これほどまでにアマチュア然とした大会を、しかも高知まで足を伸ばして取材するのか。理由は2つある。

 まず、全社という大会の重要度。JFL昇格を懸けた地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)に進出するには、各地域リーグで優勝しなければならない。では、優勝できなかった場合はどうなるのか。そこでクローズアップされるのが、全社という大会。32チームによるトーナメント大会で上位の成績を収めると(例年ならば3位まで)、地域決勝に出場してJFLへの挑戦権が得られるわけである。四国リーグの3強は、リーグ制覇がならなかったことを考えて、この全社の出場権を「保険」として得ておく必要があるわけだ。

 そしてもうひとつ、今大会の取材を思い立った大きな理由は、FC今治のライバルであるトラスターとアイゴッソのゲームが一度に見られることである。四国リーグでの直接対決では、アイゴッソに2−1で勝利したものの、トラスターには1−2で敗れ(いずれもアウェー)、FC今治は現在暫定3位となっている。9月に再び直接対決する、これら高知の強豪は、どんな指導者に率いられ、どのようなカラーを持ったチームなのだろうか。この機会にぜひ、情報を集めておきたいと思った次第である。

トラスターとアイゴッソ、それぞれの指揮官

アイゴッソ高知の西村監督。全社は「JFLに昇格するためには絶対に出ないといけない大会」と言い切る 【宇都宮徹壱】

 大会初日の25日は4試合。11時からは春野の球技場でFC今治対吉野クラブが、そして陸上サブグラウンドでトラスター対R.VELHO(アルベリオ)が対戦する。FC今治が、徳島県リーグ所属の吉野クラブに不覚を取ることはまずないだろう(結果は7−0でFC今治が勝利)。私は迷うことなく、トラスターの試合を観戦することにした。対戦相手のアルベリオは、香川県のクラブで四国リーグ所属。現在、8チーム中4位となかなかに健闘している。四国リーグ首位のトラスターは、前半こそ攻めあぐねる時間帯が続いたが、前半アディショナルタイムに先制すると、後半は畳み掛けるように得点を重ね、終わってみれば8−0の圧勝に終わった。

 トラスターは、高知県3部からスタートし、2013年に高知大学サッカー部との連合クラブとして改組、現在のクラブ名となった。今季からチームを率いる川田尚弘監督は34歳。本業は高知大特任助教で、ブンデスリーガの1.FCケルンのスカウトも兼任している。UEFA(欧州サッカー連盟)のA級ライセンスも取得しており、今年のユニバーシアード(光州大会)では、日本代表のコーチングスタッフも務めた。明日の対戦相手がFC今治に決まったことについて尋ねると「今治ですか? 強いですよねえ」とニヤリとしながら、こう続けた。「僕らは彼らのようなサッカーに専念できる環境はないし、練習も週2回だけです。それでも同じサッカー選手として試合をするわけだから、僕らは自分たちができることを最大限に出し切るだけですね」。

 午後の試合は、球技場でアイゴッソの試合を観戦した。相手は、愛媛県1部の新商クラブ。四国リーグ以上にアマチュア然とした選手ばかりであったが、要所要所で相手のパスコースを読み、ボールを奪ったらすみやかに前へという戦術を徹底させている姿には好感が持てた。一方「高知から本気でJリーグ!」を表明しているアイゴッソは、前半に2点を先制したものの後半早々にDFのクリアミスから1点を返され、どうにもぴりっとしない。後半15分に左サイドからのミドルシュートが決まり、3−1で何とか相手をねじ伏せたものの、圧倒的な強さを見せつけるには至らなかった。

 アイゴッソを率いる西村昭宏監督は56歳。セレッソ大阪や京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)の監督、さらにはJFAの育成担当技術委員長を歴任して、昨年に高知にやって来た。そんな西村監督に、全社出場の意義について尋ねると「JFLへの切符が懸かっているので、絶対に出ないといけない大会。今治さんが向こうの山に行ってくれたという意味では、くじ運には恵まれましたね」と、その切実な思いを打ち明けてくれた。明日の対戦相手は、同じ四国リーグの多度津FC。6月14日のリーグ戦では3−3で引き分けたため、現時点でのアイゴッソの自力優勝の可能性はなくなった。それだけに、彼らもまた必死で全社行きの切符を獲りに行こうとしている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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