FC今治と日本サッカーが進むべき道 岡田武史オーナーインタビュー<前編>

宇都宮徹壱

今季の四国リーグ前半戦を振り返る岡田オーナー。後半戦に向けた補強を示唆した 【宇都宮徹壱】

 FC今治の岡田武史オーナーが、指定された今治市内のホテルに姿を現したのは、約束の時間の5分前であった。この日はすでに2回の講演を終え、このインタビュー取材が終わったら、今度はテレビの取材が控えているという。夜は夜で、アドバイザリーボードのメンバーと会食しながらの打ち合わせ。翌日はトップチームのホームゲームだ。「いやあ、忙しくて忙しくて」と言いながら、ショートケーキを頬張る岡田オーナー。しかしその表情は、ぎらぎらした充実感にあふれている。

 岡田オーナーに単独で取材するのは今回が2回目。前回お会いしたのは、中国スーパーリーグの杭州緑城FCを率いていた2012年であった。当時の岡田監督もまた、未知なる挑戦に意欲的で、なおかつ「中国初の日本人監督」というプレッシャーを楽しんでいるようにも感じられた。中国と今治、そして監督とクラブオーナー。環境も自身の役割もまったく異なるものの、「誰もやったことのないことをチャレンジし続ける」という意味での連続性はあったのではないか──そんな仮説を準備して、今回の取材に臨んだ。

 インタビューの前半では、四国リーグ前半戦を終えての総括、JFL昇格をかけた地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)に対する考え、そしてオーナーになってからの心境の変化や岡田メソッドに託した想いについて語っていただいた。(取材日:5月23日)

完成していないラスト3分の1のメソッド

――明日(5月24日)で四国リーグの前半戦が終了します。前節(第6節)では高知Uトラスターに敗れて(1−2)首位の座を明け渡してしまいましたが、ここまでのチームの戦い振りをどう評価されていますか?

 先週は確かに負けたんですけれど、試合内容に関しては特に前半は今までで一番良かった。「うまくなったなあ」と思いましたね。ところが、まだまだ甘い選手たちなので、相手を巧みにかわすようなパスが通るとそこで勘違いしてしまって……。それと勝負というのはまた別だからね。こちらが主導権を握っていたんだけれど、FKを決められたり、カウンターからすごいシュートを決められたり。そこはじれったいというか、もうちょっと勝負に対する厳しさが欲しいよね。

――厳しさというと、具体的には?

 あと(ピッチの)ラスト3分の1を守備で固められたときの崩しの部分。もうちょっと強引さも必要だと思います。それとメンタル面、そこをしっかりすれば何とかなるんじゃないかな。ただ正直、われわれの(現時点での)目標というのは上(JFL)に上がることなんでね。(昇格の条件となる)地域決勝は3日連続で試合があるんでしょ。それを考えると(前期で)一巡してみて、もう少し層を厚くしないと厳しいかなとも思います。

――今季は大きな補強をせずにスタートしましたが、後半戦に向けて選手層を厚くしていくということでしょうか? たとえば元Jリーガーとか。

 Jリーグ経験者というくくりではあまり考えていなくて、もっと具体的に「ここのポジションで、こういうことできるヤツが欲しい」という感じで、今探しているところです。ただ、今季は(新戦力を)取るお金があっても、来季も支払っていかなければならない。ですから、来年の予算の積み上げからどれくらいお金を使えるのかを考えながら、リストアップしていく必要があります。

――トップチームは現在、岡田メソッドをピッチ上で表現しながら結果を求められるわけですが、メソッド構築の進捗はいかがでしょうか?

 正直、ラスト3分の1のメソッドがまだ完成していない。だから(最近の試合も)そのとおりになっているなと。スペイン人のコーチは「最後は個人の力で打開すべき」と言うんだけれど、それだと日本人には意味がない。だから僕らの方で作り込んで、そっちの方向で行くことになったんだけれど、先々週やっと決まったことなんでね。そこは後半戦で見られたらいいんだけれど(笑)。

簡単な戦いではない地域決勝

前半戦を2位で終えて自力優勝の可能性を残すFC今治。問題はそのあとの地域決勝だ 【宇都宮徹壱】

――先ほど「目標は上に上がること」とおっしゃいました。四国リーグは現在、トラスターに首位を明け渡している状況ですが、まだまだ自力優勝できるチャンスはあると思います。ただし地域決勝については、短期決戦である上に、四国リーグとはまったく異なる相手に勝たなければなりません。そろそろライバルになりそうなチームの分析を始めていたりするんでしょうか?

 まだしていない。そういうのは高司(裕也=オプティマイゼーション事業本部長)に任せてあるのでね。まだどこが出てくるか分からないから、2〜3チームに絞られてきたら情報収集を始めるんじゃないかな。

――実は私、05年からずっと地域決勝を取材しているんですけれど、各リーグとのレベルの違いはありますね。現に昨年、四国代表として地域決勝に出場したトラスターは、結局1勝もできずに1次リーグで敗退しています。

 もちろん、それは知っている。四国リーグからいきなり地域決勝じゃきついと思って、それで今年の春には強引に九州遠征をしてJのチームとやらせたりしたんだけれど。今年だと、どのあたりが強いの?

――北信越だと佐野達さんが率いるサウルコス福井、東北だとガンジュ岩手、関東だとVONDS市原、ブリオベッカ浦安あたりですかね。いずれも去年の地域決勝を戦っているので、そこで得た経験値をもとに挑んでくると思います。

 なるほどね。もし次に遠征するとしたら、6月くらいかなあ。四国リーグ以外にも、愛媛県の選手権とか、いろいろと試合があるんでね。いずれにせよ(地域決勝は)簡単な大会ではないということですよね。

――そうですね。「大本命」と目されていたところが、ころっと負けてしまうとか、土壇場で失点して昇格できないとか、そういうのをたくさん見てきました。強いチームが必ず勝つ大会ではないんですよね、地域決勝って。

 それは、どういう意味で?

――大会の入り方を間違えると、3日間連続で行われますから、その後の修正が難しいんですよ。ワールドカップ(W杯)と一緒で、いかに初戦にチームの状態をピークにもっていけるかどうかが重要だと思うんです。それと地域決勝はリーグ戦ですが、引き分けになるとPK戦が行われる、特殊なレギュレーションなんです(編注:PK戦勝者には勝ち点2、敗者には1が与えられる)。6試合やれば、必ずどこかでPK戦がありますから、精神面でのタフさも求められると思いますね。すみません、岡田さんのインタビューなのに私のほうがしゃべってしまって(笑)。

 いやいや(笑)、勉強になりますよ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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