FC今治が重視する育成と国際交流 『バリカップ』に込められた狙い
岡田オーナーが語る「国際交流」の重要性
子どもたちとの記念撮に快く応じる岡田オーナー。「国際交流はクラブの理念のひとつ」と語る 【宇都宮徹壱】
上海の領事館に赴任するという人には「今度、杭州緑城と提携するんだけれど、上海は通り道だから何かやりましょうよ」。釜山の関係者には「この間、ホン・ミョンボ(前韓国代表監督)に連絡しましたよ。彼も忙しいみたいだけれど、韓国とも何か一緒にやりたいですね」。なるほど、こうやって次々と新たな人脈やアイデアが生まれていくんだな──そう感心しながら観察していると、今度は出場チームの子どもたちと保護者が「サインください!」「一緒に写真を撮らせてください!」と引きも切らずにやってくる。「おかしいなあ。この子たち、オレが代表監督をやっていた時は6〜7歳くらいだろ? 覚えていると思えないんだけどなあ」と苦笑しつつ、ひとりひとり丁寧にファンサービスに応じる岡田オーナー。この日だけで、50人以上にサインしたはずである。
ひとしきりファンサービスを終えたところで、あらためてバリカップにおける国際交流に意義について、岡田オーナーに尋ねてみた。この大会で、韓国と中国のチームを招待するのは、彼自身のアイデアであり、強い希望でもあると聞いていたからだ。実際、岡田オーナーの答えは、実に明確であった。
「(FC今治の)理念やミッション・ステートメントには『国際交流』というのがあるんでね。まずは東アジアの人間として、中国や韓国との交流というものを大切にしたい。今は政治的に、日中韓はうまくいっていないかもしれないけれど、そういったものをほぐしていく力がスポーツにはある。この大会によって、すぐに何かが変わるということはないだろうけれど、それでもスポーツでできることを今後も続けていきたいですね」
そういえば前日の歓迎レセプションを取材したとき、言葉が通じない日韓中の子どもたちが、ゲームや遊びを通じてすぐに打ち解ける様子を間近で見て、久々に深い感動を覚えた。と同時に、こうした交流は、できるだけ若い時に経験すべきであるとも痛感した。そのことをオーナーに伝えると「そうなんですよ。子どもの時にそうした経験があれば、その後に違った教育を受けても『国と国、人と人とでは違うんじゃないの?』ということに気づいてくれるんじゃないですかね」という答えが返ってきた。今年、FC今治の新たなチャレンジとして始まったバリカップ。小さな試みではあるが、今治から東アジアに向けた発信が、どのような波及効果を及ぼすことになるのか注目したい。