FC今治が重視する育成と国際交流 『バリカップ』に込められた狙い

宇都宮徹壱

岡田オーナーが語る「国際交流」の重要性

子どもたちとの記念撮に快く応じる岡田オーナー。「国際交流はクラブの理念のひとつ」と語る 【宇都宮徹壱】

 13時を過ぎたところで、前日に誕生日を迎えたばかりの岡田オーナーが、吉武博文コーチとともに会場に姿を現した。「ウチは今、どんな感じ?」と今治の下部組織の戦績を確認すると、テントに用意された弁当をかきこみながら子どもたちの試合を観戦し始める。だが、あまりゆっくりもしていられない。岡田オーナーにあいさつしようと、次から次へとテントに人がやってくるからだ。そのたびにオーナーは、いちいち立ち上がってはにこやかに対応する。

 上海の領事館に赴任するという人には「今度、杭州緑城と提携するんだけれど、上海は通り道だから何かやりましょうよ」。釜山の関係者には「この間、ホン・ミョンボ(前韓国代表監督)に連絡しましたよ。彼も忙しいみたいだけれど、韓国とも何か一緒にやりたいですね」。なるほど、こうやって次々と新たな人脈やアイデアが生まれていくんだな──そう感心しながら観察していると、今度は出場チームの子どもたちと保護者が「サインください!」「一緒に写真を撮らせてください!」と引きも切らずにやってくる。「おかしいなあ。この子たち、オレが代表監督をやっていた時は6〜7歳くらいだろ? 覚えていると思えないんだけどなあ」と苦笑しつつ、ひとりひとり丁寧にファンサービスに応じる岡田オーナー。この日だけで、50人以上にサインしたはずである。

 ひとしきりファンサービスを終えたところで、あらためてバリカップにおける国際交流に意義について、岡田オーナーに尋ねてみた。この大会で、韓国と中国のチームを招待するのは、彼自身のアイデアであり、強い希望でもあると聞いていたからだ。実際、岡田オーナーの答えは、実に明確であった。

「(FC今治の)理念やミッション・ステートメントには『国際交流』というのがあるんでね。まずは東アジアの人間として、中国や韓国との交流というものを大切にしたい。今は政治的に、日中韓はうまくいっていないかもしれないけれど、そういったものをほぐしていく力がスポーツにはある。この大会によって、すぐに何かが変わるということはないだろうけれど、それでもスポーツでできることを今後も続けていきたいですね」

 そういえば前日の歓迎レセプションを取材したとき、言葉が通じない日韓中の子どもたちが、ゲームや遊びを通じてすぐに打ち解ける様子を間近で見て、久々に深い感動を覚えた。と同時に、こうした交流は、できるだけ若い時に経験すべきであるとも痛感した。そのことをオーナーに伝えると「そうなんですよ。子どもの時にそうした経験があれば、その後に違った教育を受けても『国と国、人と人とでは違うんじゃないの?』ということに気づいてくれるんじゃないですかね」という答えが返ってきた。今年、FC今治の新たなチャレンジとして始まったバリカップ。小さな試みではあるが、今治から東アジアに向けた発信が、どのような波及効果を及ぼすことになるのか注目したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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