米国に誕生した豪華クラブNYC FC “欧州ビッグスリー”が機能せず大苦戦
期待外れの華やかなクラブ
ピルロを筆頭に、ビジャ、ランパードの欧州ビッグスリーを獲得し、華やかに創設1年目をスタートさせたNYC FCだが、MLSでの苦戦を強いられている 【Getty Images Sport】
8月29日、地元ニューヨークで行われたコロンバス・クルーSC戦に1−2で敗れた直後――。ニューヨーク・シティFCのジェイソン・クライス監督は、そう言葉を絞り出した。スペイン代表歴代最多ゴール記録保持者のダビド・ビジャ、イングランドの名門チェルシーで伝説的存在となったフランク・ランパード、さらにイタリアの英雄アンドレア・ピルロを擁するチームの指揮官が、こんな苦悶の表情でシーズンを語ることになるとは誰が想像できただろうか。
MLS(メジャーリーグサッカー)に生まれた新たなスター軍団が苦しんでいる。3人合わせてW杯出場は9度、欧州主要リーグ優勝は12度、合計1500万ドル(約18億円)の高給を受け取る“欧州のビッグスリー”を看板に据え、華やかに創設1年目をスタートさせたNYC FC。ヤンキー・スタジアムを本拠地として使用する話題性もあり、平均観客動員数はリーグ3位と好調だ。
しかし、コロンバス・クルー戦に敗れた(1−2)時点で、肝心の今季戦績は7勝13敗7分け。イースタン・カンファレンスの10チーム中8位とプレーオフ圏内のカンファレンス6位以内にも入れていない現状は、期待外れという他にない。少数のエリート選手に高額契約を与え、周囲を無名選手で固めるチーム作りのフィロソフィー(哲学)は好結果につながっていない。
王者LAギャラクシーとの違いは明白
今夏にジェラード(中央)を獲得した王者LAギャラクシーとの組織力の違いは明白だった 【Getty Images Sport】
ピルロのそんな言葉通り、現時点で“ビッグスリー体制は失敗”と結論づけるのは早計過ぎるのだろう。ビジャこそ24戦に出場し、リーグ3位の15ゴール(チーム全体の41.7%)を挙げて大黒柱になっている。しかし、シーズン途中に加入が決まったピルロは7戦、けがに悩まされ最大の誤算となったランパードは3戦に出場したのみ。構想外だった選手たちまで含めて必死にやりくりしている状態では、チーム内にケミストリーなど生まれるはずもない。
チームとしての成熟度の低さは、8月23日(現地時間)に行われた昨季王者ロサンゼルス・ギャラクシー戦で明白に晒された。過去4年間で3度もMLSカップを獲得したLAギャラクシーは、ロビー・キーン、スティーブン・ジェラード、ジョバニ・ドス・サントスといった著名選手を擁するパワーハウス。“スター軍団同士の激突”としてESPNがあおったこともあり、NYC FCとの初対決はシーズン中のゲームとしては最大級の注目を集めるに至った。
イギリスの『スカイスポーツ』の放送に合わせるために試合開始が米西部時間午後12時に繰り上げられたのだから、その前評判の高さがうかがい知れる。しかし、盛り上がったのは試合開始前までだった。
約27000人の大観衆の前で行われたゲームは、この試合を含めて過去13戦10勝と好調の王者LAギャラクシーが5−1で圧勝。5失点で済んだのがラッキーに思えるほど、NYC FCはズタズタに切り裂かれてしまった。
「チームメートの助けが必要だ。僕一人ではできないのだから」
無惨なギャラクシー戦の後、ビジャはそう語ったと報道されている。実際にピルロ、ビジャらは時に印象的な個人技で魅せるも(ランパードは負傷欠場)、過去19年で5度の優勝の実績を持つ相手との組織力の違いは明白だった。