移行期を迎えた欧州の各クラブ 未来のスターが真価を問われるシーズンに

変化の時を迎えた選手や監督たち

MLSに活躍の場を変えたジェラードをはじめ、今季は多くの名選手たちが欧州の第一線を退いた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 2014年がワールドカップ(W杯)、15年がコパ・アメリカの年ならば、ユーロ(欧州選手権)2016フランス大会で締めくくる新シーズンは長年フットボール界の夜空で輝きを放ってきたスター選手の多くがキャリアの終盤を迎える移行期となるだろう。

 今季はフランク・ランパード、スティーブン・ジェラード、シャビ・エルナンデス、アンドレア・ピルロ、ロビン・ファン・ペルシー、イケル・カシージャスらが欧州の第一線を退いたことで、多くのビッグクラブが主力選手の刷新に動いている。米国やカタール、トルコやポルトガルに新天地を求めた彼らの後を継いだ未来のクラック(名選手)たちは、国内外の厳しいコンペティションでその真価が試されることになる。

 選手だけではない。ビッグクラブの監督たちもまた、変化の時を迎えようとしている。

 その一人であるジョゼップ・グアルディオラは、バイエルン・ミュンヘンでの3シーズン目となる今季を最後にマンチェスター・シティの監督に就任すると言われている。グアルディオラ率いるバイエルンはボールポゼッションと連係プレーを駆使したスタイルを極めるべく、年々さまざまな国籍の選手が集まる多国籍軍の様相を呈するようになっており、それがドイツらしさの喪失を危惧する一部クラブ役員の反感を買うことにもつながっているからだ。

 ラファエル・ベニテスは20年前まで下部組織で指導していたレアル・マドリーの監督に就任した。前任者のカルロ・アンチェロッティは1年前にチャンピオンズリーグ(CL)を制し、2年目の昨季も3つのコンペティションすべてで好成績を残しながら、主要タイトル無冠で終わったことを理由に解任された。これまでも必要と見れば臆することなく監督の首を切ってきたフロレンティーノ・ペレス会長は、周囲にどれだけ反対されようとも自身が正しい判断を下したと確信しているようだ。

カシージャスから生まれるGKの移籍連鎖

20年以上も歴史を刻んできたレアル・マドリーを退団し、ポルトへと移籍したカシージャス 【写真:Action Images/アフロ】

 奇妙なことに、近年世界中の注目を集めるライバル関係を築いてきた2人の名将、グアルディオラとジョゼ・モウリーニョはそろって今季初の公式戦である国内のスーパーカップで敗れた。特にPK戦の末にヴォルフスブルクに敗れた(1−1、PK4−5)グアルディオラは、これが3年連続のドイツスーパーカップ敗退となる。

 一方のモウリーニョは、ウェンブリーで行われたコミュニティーシールドにてアーセナルに0−1で敗れ、通算14戦目にして対アーセン・ベンゲル初黒星を喫した。なおこの試合ではチェルシーから移籍したペトル・チェフがガナーズ(アーセナルの愛称)のゴールマウスを守っていた。

 トップレベルのGKでは、クラブと代表の双方で数々のタイトルを獲得してきたカシージャスが20年以上も歴史を刻んできたレアル・マドリーを退団し、ポルトへと移籍している。現在レアル・マドリーファンの間では新たな守護神としてマンチェスター・ユナイテッドのダビド・デ・ヘアを獲得すべきかどうかの議論が盛んに交わされているようだ。

 そのマンチェスター・ユナイテッドはデ・ヘアが移籍することを想定し、AZアルクマール時代にもルイ・ファン・ハール監督の下でプレーしたセルヒオ・ロメロを獲得した。レッドデビルス(マンチェスター・ユナイテッドの愛称)からは1月に契約を交わしたビクトル・バルデスもプレー機会を求めて移籍することが確実だ。同様の理由でラダメル・ファルカオはチェルシーへと移籍している。

シーズン終了時にW杯の中間年を迎える

ユベントスはボカ・ジュニアーズへと移籍したテベスらの穴を埋めるほどの補強ができていない 【写真:ロイター/アフロ】

 監督とGK以外に大きな動きを見せていないレアル・マドリーとは裏腹に、アトレティコ・マドリーはジャクソン・マルティネスやルシアーノ・ビエット、フィリペ・ルイスらトップレベルの選手を積極的に補強しており、リーガ・エスパニョーラの2強との実力差が着実に狭まりつつある。

 リーガとCL、国王杯に加えてスーペルコパ・デ・エスパーニャとUEFAスーパーカップ、そして年末に日本で行われるクラブW杯の計6タイトル獲得を目指すバルセロナは、FIFAから受けた補強禁止の制裁により昨季と同じメンバーでのスタートを義務づけられている。

 さらにネイマール獲得オペレーションを巡る脱税裁判でも窮地に立たされながら、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は7月の会長選挙で続投を決めた。平行してクラブは1月まで新規の選手登録ができないにもかかわらず、セビージャのアレイクス・ビダル、アトレティコ・マドリーのアルダ・トゥランと契約を結んでいる。

 驚いたのは三冠獲得まであと一歩と迫る昨季の原動力となったピルロ、カルロス・テベス、アルトゥーロ・ビダルらを放出したユベントスだ。現状ユーベは彼らの抜けた穴を補填できるほどの補強ができておらず、セリエA5連覇に向けて暗雲が立ち込めている。

 他に移籍市場で話題を提供しているのはフランススーパーカップを制して今季初タイトルを手にしたパリ・サンジェルマンで、アンヘル・ディ・マリアの獲得が正式に決まっている。

 各国のリーグ戦とCL、欧州リーグが始まれば、これらのビッグクラブが提供するうわさや憶測はピッチ上の結果とプレー内容に置き換えられるはずだ。だがシーズン終了時にW杯の中間年を迎える今季は、長年トップレベルで活躍してきたスター選手たちの多くが1つのサイクルを終えるタイミングとなることだろう。それは同時に、新たなスター候補たちがファンの心をつかまなければいけない勝負のシーズンであることも意味する。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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