米国に誕生した豪華クラブNYC FC “欧州ビッグスリー”が機能せず大苦戦
甘くはない創設20年目のMLS
22年までに世界のトップリーグに肩を並べることを目標に掲げ、各チームが長期視野での補強に取り組んでいるMLSでの戦いは甘くはない 【Getty Images Sport】
元イタリア代表のセバスチャン・ジョビンコに560万ドル(約6億8000万円)を費やしたトロントFC、リーグ最高給710万ドル(約8億6000万円)のカカを擁するオーランド・シティSCもプレーオフ当落線上に停滞中。逆にDCユナイテッド、FCダラスのように、無名選手ばかりの低予算クラブながら上位につけているチームもある。
2022年までに世界のトップリーグに肩を並べることを目標に掲げ、各チームが長期視野での補強に取り組んでいるMLS。創設20年目を迎えた米国のサッカーリーグは、一部のスーパースターの個人技だけで勝てるほど甘い世界ではないということなのだろう。
「新チームが勝つのは簡単ではない。先発する11人の選手たちの中でも個々の能力に差が出てしまうものだが、私たちはその格差が小さいんだ。今季にジェラードが加わったが、勝つために彼に依存する必要はなかった。(11年に)ロビー・キーンが加わったときも、(デビッド・)ベッカム、(ランドン・)ドノバンがいたことが助けになった。ベッカムが入ったときにはその基盤がなかったから、チーム作りは容易ではなかった。だから当時のギャラクシーは良いチームではなかった」
LAギャラクシーを率いるブルース・アリーナ監督の言葉は、苦しい時間を経験するNYC FCにとっても今後へのヒントになるに違いない。
ドノバン、ベッカム、ロビー・キーンといったスターが目立ってきたLAギャラクシーだが、彼らに依存して勝ってきたわけではない。一部の主軸を中心に、チームの基盤を時間をかけて作り上げてきた。今夏に獲得したジェラード、ドス・サントスがすぐに適応し、結果を出せているのは、チーム全体がすでにできあがっていたからである。
欧州トリオがクラブの礎に
ランパードは37歳、ピルロは36歳、ビジャは33歳と年齢的には峠を越え、同じニューヨークに本拠を置くニューヨーク・レッドブルズ戦では“NYC FCは高齢者ホーム”といった皮肉の横断幕も掲げられていた。そんな逆風の中で、心身ともに万全の状態であることを示す必要がある。今季のランパードのように主軸が故障がちでは、いつまでたってもチーム内の士気は高まらないはずだ。
そして、この3人を中央に据えて、周囲の選手たちの力も引き出していかなければならない。欧州トリオ以外にも、NYC FCには24歳のトミー・マクナマラ、ミッケル・ディスケルドといった魅力的な若手が属している。23歳の荒削りなガーナ人、クワドォー・ポクも過去4戦で3ゴールを挙げて話題を呼んできた。これらの若いタレントが“ビッグスリー”と噛み合い始めたとき、NYC FCの基盤はようやくできてくるのだろう。
「このチームの能力には自信を持っている。みんなが噛み合い始めれば、多くのゲームに勝ち、プレーオフに進んでいけるはずだ」
予想以上に厳しい現実にすでに気づいたはずのランパードだが、今後への意欲を変わらずに強調している。ただ、現実的にチーム作りには時間がかかりそうで、残り7試合で逆転でのプレーオフ進出は容易ではない。ビジャ、ピルロ、ランパードとその新たな仲間たちが輝き始めるのは、おそらく来季以降か。
苦しいスタートを切った欧州のスタートリオは、米国でもう一花咲かせることができるのか。選手生活も終盤を迎え、予想以上に難しい作業を成し遂げるモチベーションが残っているか。スポーツファンもせっかちなニューヨークで、新チームを成長させることは簡単な仕事ではない。
しかし、“新大陸”に誕生した華やかなNYC FCの礎になることができれば、輝かしいキャリアにまた新たな勲章が加わるはずなのである。