ビルバオが成し遂げた驚くべき偉業 圧勝でバルセロナ6冠の夢を打ち砕く

バスク純血という哲学

バルセロナに2試合合計5−1で圧勝。ビルバオがスーペルコパ・デ・エスパーニャを制した 【写真:ロイター/アフロ】

 アスレティック・ビルバオが驚くべき偉業を成し遂げた。他でもないバルセロナを相手に2試合合計5−1と圧勝し――エスタディオ・サンマメスでのファーストレグを4−0で制し、カンプノウでのセカンドレグは1−1のドローで逃げ切った――、2015年のスーペルコパ・デ・エスパーニャ(スペイン・スーパーカップ)を獲得したのである。

「ボスマン判決」によってヨーロッパ内の移籍の自由化が進んだ1996−97シーズン以降、選手の国際移籍が日常化して久しい現在のフットボール界において、バスクに出自を持つ選手のみでチームを構成するビルバオが手にした成功は賞賛すべきものだ。フランスのスポーツ紙『レキップ』は、この快挙を「フットボール史における唯一無二の出来事」と伝えている。

 バスク純血という哲学を貫きながら、ビルバオは100年以上に渡って一度も2部降格を経験しない安定したクラブ経営を保ってきた。エルネスト・バルベルデ監督の退任後にチームが低迷に陥り、フェルナンド・ラミキス会長が辞任を強いられた05〜07年にかけては苦しい時期を過ごしたものの、ホアキン・カパロス監督が就任した07年以降は有能な若手の台頭により急成長を遂げている。

 09年にはコパデルレイ決勝に進出(結果は準優勝)し、翌年のヨーロッパリーグ(EL)出場権を獲得。12年にはジョス・ウルティア現会長が招聘(しょうへい)したマルセロ・ビエルサ監督の下、コパデルレイとELで共に決勝へ勝ち上がった。コパでは09年に続いてジョセップ・グアルディオラ率いるバルセロナに、ELではディエゴ・シメオネのアトレティコ・マドリーに敗れた(共に0−3)ものの、とりわけマンチェスター・ユナイテッド(合計5−3)やシャルケ04(合計6−4)、スポルティング・リスボン(合計4−3)を次々と撃破するヨーロッパでの快進撃は国内外で大きなインパクトをもたらした。

2試合で異なる戦略を全う

 その代償としてハビ・マルティネス(→バイエルン)、フェルナンド・ジョレンテ(→ユベントス)らがビッグクラブに引き抜かれ、昨季終了後には長年チームを支えたアンドニ・イラオラも退団した(ニューヨーク・シティに加入)。それでも現在のチームにはミケル・サン・ホセ、アンデル・イトゥラスペ、オスカル・デ・マルコス、マルケル・スサエタら黄金世代、アイメリック・ラポルト、イケル・ムニアインら若手組、そしてゴルカ・イライソス、カルロス・グルペギ、アリツ・アドゥリスらベテラン組が健在だ。

 ジョレンテが契約更新を拒否したことをきっかけにクラブと対立して以降、ビルバオの得点源として定着したアドゥリスは、今回のスーペルコパにて圧倒的な得点力を発揮した。ハットトリックを記録したホームのファーストレグに続き、カンプノウのセカンドレグでも決定的な同点弾を挙げた彼は、今週末に控えるリーガ・エスパニョーラの開幕戦で再びバルセロナからゴールを奪うチャンスを手にしている。

アドゥリス(左)は初戦のハットトリックに続き、第2戦でも同点ゴールを決めた 【写真:ロイター/アフロ】

 合流間もないリオネル・メッシやハビエル・マスチェラーノが調整不足で、ネイマールも不在ではあった。それでもバルセロナは恐れるべきチームであり、12月のクラブワールドカップで締めくくる6冠制覇を目指し、スーペルコパでの15年5冠目を本気で狙っていた。

 そんな相手に対し、ファーストレグのビルバオは敵陣の高い位置から厳しいプレスを仕掛け、メッシがプレーに関与できないよう彼へのパスコースを完璧に断ち切る積極的な戦略を全うした。一方のバルセロナはこの種のファイナルにおける経験が浅いラフィーニャやセルジ・ロベルトが先発出場の期待に応えられず、相手のプレスに苦しみボールロストを連発。12年以降はトップフォームを失ったままで、移籍が秒読みとなっていたペドロ・ロドリゲスのプレーも冴えなかった(その後、ペドロはチェルシーへ移籍)。

 バルセロナのパフォーマンスがここ数年のスパンで見ても最低の出来に終始した後半、ビルバオは相手のミスを生かして点差を4ゴールまで広げることに成功した。そしてカンプノウではファーストレグとはまったく異なる戦略を立て、ディフェンスラインを極端に下げて相手にプレースペースを与えない守備を徹底。対するバルセロナは現状のベストメンバーをそろえて臨んだものの、時間との戦いを強いられる中で大量得点を挙げられるだけのスペースを作り出すことができなかった。

不安要素を露呈したバルセロナ

調整不足もあり、メッシは本来の調子とは程遠かった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ビルバオに大敗したスーペルコパだけでなく、セビージャを延長戦の末に下した(5−4)UEFAスーパーカップも含めた今夏を通し、バルセロナはいくつもの不安要素を露呈することになった。特に中盤から前線にかけて、今回のような大一番で計算できる戦力がぎりぎりしかいないことは、アレイクス・ビダルとアルダ・トゥランが起用できるようになる16年1月の補強解禁までチームのアキレス腱となり続けるだろう。

 また今回のスーペルコパ・デ・エスパーニャについては、そもそも開催されるべきものではなかったということにも触れておく必要がある。昨季バルセロナがリーガ・エスパニョーラとコパデルレイの双方を制した時点で、このタイトルもバルセロナに与えられるのが筋だからだ。

 しかし、現在のフットボールにおいてはそのような正論よりビジネスやマーケティング、テレビ放送の都合が重視されるため、スーペルコパの2試合はどんな形であれ開催する必要があった。こうして出場権を得たビルバオはピッチ上で文句なしの結果を出し、元々は挑戦する権利すらなかったタイトルを手にしたのだった。

 われわれが生きている現代とはそういう時代なのだ。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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