バルセロナの会長選挙はバルトメウが再選 継続を望んだクラブを待つ山積みの課題

数カ月前まで再選の可能性は低かった

注目されたバルセロナの会長選挙は現職のバルトメウ(中央)が新会長に選ばれた 【写真:ロイター/アフロ】

 7月18日に行われたバルセロナの会長選挙にて、現職のジョセップ・マリア・バルトメウが新会長に選ばれた。

 元々バルトメウは2010年の会長選挙で当選したサンドロ・ロセイ前会長の右腕であり、ロセイの辞任に伴い副会長からの繰り上げで就任した会長であるため、「ソシオから選ばれた会長ではない」とたびたび対抗派閥から指摘されてきた。しかもロセイが辞任した原因であり、自身も告発されているネイマール獲得時の脱税疑惑をはじめとした複数の訴訟問題を抱えているだけでなく、カタール航空との胸スポンサー契約など、クラブのアイデンティティーに関わる経営方針も疑問視されていた。

 こうした背景に加え、今年の1月にルイス・エンリケとリオネル・メッシの衝突が表面化し、チームがピッチ内外で危機に直面したこともあり、ほんの数カ月前までバルトメウが当選する可能性は限りなく低いと見られていた。12月末には未成年選手の国際移籍に関する規律違反で1年間の補強禁止処分も確定し、批判の対象となっていたネイマールの獲得費用は当初に発表した額をはるかに上回ることも判明している。そんな状況下では選挙での当選どころか、ロセイのようにシーズン終了前にクラブを追われる可能性の方が高いとまで言われていた。

ゆっくりと諸問題を沈静化

シャビのお別れ会見を開くなど地道な努力を続け、クラブの問題を沈静化させた 【写真:ロイター/アフロ】

 スポーツディレクターから解任されたアンドニ・スビサレッタの存在もバルトメウにとっては頭の痛い問題だった。彼は解任が決まる直前、FIFA(国際サッカー連盟)から制裁を受ける原因となった未成年選手の国際移籍違反の責任が、元スポーツ部門の最高責任者であるバルトメウにあることを示唆していたからだ。

 実際に、スビサレッタはいくつも誤った決断を下してきた。13−14シーズンの終盤にビクトル・バルデスの長期離脱が生じた際には、彼の代役として活躍したホセ・マヌエル・ピントに、契約を延長しない意向を早々に伝えていたことが批判の対象となった。膝の故障により引退を強いられたカルロス・プジョルの代役となるセンターバックの補強を先送りとしたこともそうだ。

 昨季は即戦力を多数獲得することで戦力は整ったものの、バルトメウはシャビ・エルナンデスを良い形で送り出し、難航したダニエウ・アウベスとの契約交渉をまとめ、プレー機会を得られずにいたペドロ・ロドリゲスやアドリアーノを慰留し、マルティン・モントーヤの処遇を決めるなど、多数の仕事に追われることになった。

 こうした状況下、経営者としての経験から地道な努力が実を結ぶことをよく心得ていたバルトメウは、急がずゆっくりとクラブが抱える問題を沈静化させていった。ネイマール裁判は現在も続いているものの、担当の裁判所をマドリーからバルセロナに移す要求が通った後は検察側との緊張関係がほぐれはじめ、メッシにメディアを通して「彼はフットボールのことは何も知らない」と批判されたハビエル・ファウス副会長は執行部を去った。

依然として解決すべき問題は多い

来季に向けアルダを獲得するなど仕事を進めているが、問題は山積みだ 【写真:ロイター/アフロ】

 さらにトップチームがリーガ・エスパニョーラ、コパ・デルレイ、チャンピオンズリーグの三冠を獲得する幸運にも恵まれた結果、バルセロニスタのカリスマであるジョセップ・グアルディオラやヨハン・クライフを味方に付け、メッシとも良好な関係を保っている対立候補のジョアン・ラポルタを抑えて当選を果たしたのである。

 対立候補のラポルタは、バルトメウが“銀河系”のビッグネーム獲得にこだわるフロレンティーノ・ペレス(レアル・マドリーの会長)のようだと指摘してきた。だがバルトメウはこれを否定するとともに、「われわれは常に世界最高のフットボーラーを擁することを望んでいる」とクレ(バルセロナサポーターの愛称)に訴え、50%以上の得票率を得ることに成功した。

 既に彼はモントーヤとシャビが抜ける穴埋めのため、16年に向けてアレイクス・ビダルとアルダ・トゥランを獲得している。依然として解決すべき問題があるとはいえ、過半数のソシオの支持を獲得し、対立するラポルタの力が弱まった今後は、以前より落ち着いてクラブ経営に専念できることだろう。

 また独立へ向けた動きが強まるカタルーニャの政治情勢についても、今後バルトメウと新執行部はクラブとして明確な姿勢を示すことを求められるだろう。今回の会長選挙を通し、ラポルタはスペイン政府に向けて厳しい発言を繰り返していたが、バルトメウはそこまで極端な意思表示を避けてきたからだ。

「寡黙な努力家であり、分裂より団結、強要より同意を望む人間」と自称する新会長は、はたして山積みの課題に取り組みながら、昨季手にした成功を維持することができるのか。その答えは時の流れとともに明らかになっていくはずだ。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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