サイクル終焉説を覆したバルセロナ 苦境から得た教訓を糧に三冠達成

年明け初戦に敗れ不穏な空気に

サイクル終焉説もささやかれながら、バルセロナは苦境を乗り越え、三冠を達成した 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 戦力の問題ではない。選手はいつだって余るほどいた。問題は別のところ、不信の目にさらされていたロッカールームの中にあった。新監督は過去の指揮官たちとは異なるやり方を持ち込み、何人かの選手は心身共に消耗し、チームの周囲はサイクルの終わりを印象づける意見や情報で溢れていた。

 それが2015年の初戦でレアル・ソシエダに敗れた時点のバルセロナだった。この試合後、リオネル・メッシとルイス・エンリケ監督が激しい口論を交わしたことが明るみに出た。さらにメッシが翌日の練習を無断で休み、移籍のうわさが上がっていたチェルシーのインスタグラムをフォローしたことで、エースと指揮官の決裂は修復不可能なものとなったかに思われた。

 しかし、バルセロナの快進撃が始まったのはここからだった。イバン・ラキティッチは中盤に定着し、その傍らで散発的にしかプレー時間を得られないシャビはいかにボールを保持するかをチームメートに教え説いた。契約更新でもめていたダニエウ・アウベスはかつてのプレーを思い出し、行き先不明のクロスを上げる悪癖は見られなくなった。ジェラール・ピケが完全復活を遂げたディフェンスラインはかつてないほど堅固になった。

 さらにはリーガ・エスパニョーラで首位を快走していたレアル・マドリーが調子を落とすという追い風まで受けるのと平行し、3トップがそろって調子を上げてきたのだから言うことはない。シーズン58ゴールを記録したメッシ、同39ゴールを挙げたネイマール、そしてワールドカップ(W杯)での噛みつき事件で受けた制裁を乗り越え、新たに加わったスアレス。長年中盤の選手たちが主役を担ってきたバルセロナだが、今や最大の強みが前線の3人にあることは周知の事実だ。

完全復活を果たしたメッシ

完全復活を果たしたメッシ。5度目のバロンドール受賞が確実視される 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 それぞれの名前の頭文字をとった「MSN」の呼び名も定着したバルセロナのトリデンテは、誰もが認める3人のクラック(名手)がただ同時にプレーしているだけでなく、チームの結束を強める上でも重要な役割を果たしている。セスク・ファブレガス、ホセ・マヌエル・ピントら友人がチームを去った後のメッシにとって、プライベートでも良い関係を築いているネイマールとスアレスはピッチ外でも重要な存在となっているのだ。

 守備的に戦うチームの中で思うように輝けなかったW杯を経て、今季のメッシは完全復活を果たした。シーズン序盤こそ昨季のパフォーマンスを引きずっている印象があったものの、15年に入って以降は全盛期に近いレベルを取り戻した。数年前と比べれば劣る部分もあるとはいえ、彼が地球上のあらゆる選手を大きく上回っていることに変わりはない。来年1月、彼が5度目のFIFAバロンドールを受賞することはほぼ間違いないだろう。

 W杯を終え、バルセロナでのプレーに集中できるようになったメッシは、マルティン・デミチェリスに紹介されたイタリア人栄養士に師事してベストコンディションを取り戻した今季、リーガ・エスパニョーラ、スペイン国王杯、チャンピオンズリーグ(CL)と3つのタイトルを全て勝ち獲ってしまった。来季にはアスレティック・ビルバオとのスーペルコパ・デ・エスパーニャ、セビージャとのUEFAスーパーカップ、そして日本で開催される12月のクラブW杯も控えており、今年のうちに全てを勝ち獲る可能性を手にしている。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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