ホークス“休みの備学”で死角ナシ 首位独走を支える工藤采配の妙

ベースボール・タイムズ

短期目標は明確「カード勝ち越し」

就任1年目ながら巧みなチームマネジメントを見せる工藤監督(中央)。「カード勝ち越し」という明確な目標を着実にクリアしている 【写真は共同】

 快調にパ・リーグの首位を独走してきた福岡ソフトバンクは8月5日の北海道日本ハム戦(ヤフオクドーム)で劇的なサヨナラ勝ちを収め、優勝マジック「38」を点灯させた(10日現在は35)。94試合目でのマジック点灯は、1989年の福岡移転後の球団最速記録。2位に17.5ゲームの大差をつけてリーグ優勝を果たした11年でさえ、優勝マジックが初点灯したのは122試合目(マジック17)。“100打点カルテット”が誕生したダイエー時代の03年でも、初点灯は104試合目(マジック30)のことだったのだ。

 就任1年目の工藤公康監督は「ここまで長期・中期・短期の目標を設定してやってきた」と語る。長期目標はもちろんリーグ優勝と日本一の連覇。中期目標は交流戦、夏場といった少し先の日程をどう乗り切るのか。そして短期目標は、工藤監督が毎試合のように口にする「目の前のカードで勝ち越すこと」だった。

 その言葉通り、ソフトバンクは交流戦最終カードの広島戦(6月12〜14日)に負け越して以来、8月6日までの13カード連続で負け越しなし。その間の成績は26勝5敗。2カ月弱の間に、実に21個もの貯金を上乗せした。キャプテンの内川聖一が「先のことを考えるのは監督とコーチにお任せして、ボクたち選手は目の前の試合に勝つだけ」と語るように、「カード勝ち越し」という明確な目標は選手の間にもしっかりと浸透している。

リーグ連覇への備えを怠らない

 工藤采配の特徴を示す、ひとつのシーンがある。7月26日のオリックス戦(ヤフオクドーム)。土壇場の9回に同点に追い付くと、延長10回は五十嵐亮太がきっちりと抑え、試合は11回の攻防へ。ここで工藤監督は守護神・サファテを温存して、森福允彦にイニングを任せた。しかし、森福は野手の間に落ちる不運な勝ち越し打を許し、そこから失点を重ねて後半戦初の敗戦となった。

 試合後、工藤監督は「すでにカードの勝ち越しが決まっていたけど、別に負けてもいいやという気持ちで采配したわけじゃない」と前置きをした上で、次の言葉を続けた。

「サファテは最初から休ませることにしていたから、何とか他のメンバーで、と思っていた。森福は右打者へのツーシームを練習していたし、登板数も少なかったから任せた。サファテや五十嵐は休めるゲームをしっかり作って、投げさせない日はブルペンにも入らないことを考える。今、故障したら1週間や10日では済まなくなるからね」

 強打にばかり目が行きがちだが、チーム防御率2.99(成績はすべて8月10日現在)はリーグ断トツで、特に救援防御率2.36は12球団トップ(先発防御率3.24は12球団中4位)を誇る。その中で40試合以上に登板しているのは抑えのサファテ(46試合)のみで、残りを上記の五十嵐、森福に加えて、森唯斗、二保旭、バリオス、さらには寺原隼人、飯田優也、嘉弥真慎也らが埋めてきた。選手たちを定期的に休ませて、目の前にあるリーグ連覇への備えを怠らない。それこそが、筑波大学大学院でスポーツ医学を学び、選手の体調維持に人一倍気を遣う工藤監督の“備学”であり、リリーフ陣の充実ぶりを支える土台となっている。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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