前に進む―復活・寺原隼人が下した決断=鷹詞〜たかことば〜
高まる寺原の存在感
ここまで無傷の4勝と好調の寺原。本人は「まだまだ」と気を緩めない 【写真は共同】
その2戦目、6月20日に先発し7回5安打1失点と好投。今季無傷の4連勝を飾り、防御率1.95の好成績をマークしているのが寺原隼人である。
先ごろまでソフトバンクは開幕から先発ローテの顔ぶれが大きく変わることなく戦っていた。だが、6月13日に今季開幕投手の攝津正が1軍登録を抹消。加えて、ここまで5勝を挙げている大隣憲司も左肘の不調が報じられ、前半戦中の登板が微妙となっており、寺原の存在感がより高まっている。
「まだまだですよ。とにかく勝つ。それだけしか考えていません」
笑顔を見せながら現在の好調は喜びつつも、気持ちを緩めようとしない姿勢が伝わってくる。
「自分の中で、去年投げられなかった悔しさがありますから」
「全治」は難しい膝の故障
07年には横浜ベイスターズ(現DeNA)にトレード移籍し、また交換トレードで11年からオリックス・バファローズでプレー。FA権を行使して13年シーズンから7年ぶりに古巣ソフトバンクに帰ってきた。だが、2年間でわずか5勝と期待に応えられなかった。特に昨季は5試合に登板して1勝4敗。4月30日の登板を最後に、1軍から姿を消した。
昨年は開幕前から軸足である右膝に痛みを抱えたまま投げていた。当然、思うような投球はできない。FAで入団したにもかかわらず、復帰1年目に何もできなかったもどかしさ、そして自分の意地もあった。だが、限界だったのだ。
膝の故障は厄介だ。大きな体を支え、複雑な動きをする分、完治が難しいとされる。かつては清原和博氏(元西武、巨人など)や松井秀喜氏(元巨人、ヤンキースなど)も最後は膝を痛めて引退したし、昨年のプロ野球では稲葉篤紀氏(元日本ハムなど)や里崎智也氏(元千葉ロッテ)もやはり膝の故障がユニホームを脱ぐ要因の1つになった。
寺原は昨年5月27日、右膝軟骨損傷による内視鏡下デブリードマン手術を受けた。球団発表では全治4〜5カ月。しかし、本当の意味での「全治」は難しい。医者からもそのように説明を受けたという。
「手術をしたから完全に治る、というものではないと聞いていました。もしかしたら痛みもそのまま残るかもしれない。それも受け入れた上で決断しました。だって、手術を受けなければ治ることはない。そうなれば、もう投げられないわけですから。もし、進むも止まるも地獄だったとしても、僕は前に進むことを選んだんです」