今大会のキャプテン、森重に求めたいこと 日々是東亜杯2015(8月3日@武漢)

宇都宮徹壱

練習前に行われたトップ会談

大仁会長と会談したハリルホジッチ監督。前夜の敗戦もあり、練習ではピリピリとした雰囲気が感じられた 【宇都宮徹壱】

 大会3日目。8月1日から始まった東アジアカップは、男女のゲームが一巡したところで最初のノーマッチデーを迎えた。この日は午前9時30分より、男子のリカバリー練習が行われた。練習場は、試合会場から歩いて数分の場所にある。武漢体育中心(スポーツセンター)は、メイン会場の周囲にもいくつかのグラウンドが隣接していて、大会期間中のトレーニングや試合前のアップも基本的にここで行われる。大会期間中の取材が、ほとんど1カ所に集中しているのは、取材者としてはありがたい話ではある。とはいえ「芝が痛むから」という理由で、試合前のアップを行わせないというのは、やはり本末転倒であると言わざるを得ない。プレーヤーズ・ファーストの観点から言えば、2会場を確保できる都市を開催地に選ぶべきだったと思う。

 この日のトレーニングでは、前日の北朝鮮戦に出場した11人が、ランニングなどの軽いリカバリーを30分ほどこなして終了。残る12人は、ランニング、2グループに分かれてのツータッチパス、そしてハーフコートでの5対5のゲームを行い、こちらは1時間ほどで終了した。前日の敗戦(1−2)を受けて、練習前にはドレッシングルームとピッチ上で全体ミーティングが行われ、遠めからもピリピリとした雰囲気が感じられる。またこの日は、JFA(日本サッカー協会)の大仁邦彌会長、田嶋幸三副会長、霜田正浩技術委員長も訪れ、選手がランニングしている際にはヴァイッド・ハリルホジッチ監督と大仁会長が通訳を交えて話し合いをする光景も見られた。

 霜田技術委員長は、今回の視察について「特別なことではないですよ」と語っていたが、JFA首脳部も気が気でないことは間違いないだろう。北朝鮮戦後の会見で「日本のフットボール界の責任ある方々は、今日何が起こったのかをしっかり見てほしいと思う」「真実を見ないといけない。これが日本のフットボールの現状だと思っている」と発言した指揮官の真意を確認したいという意向もあったのかもしれない。

 練習後の囲み取材に応じた大仁会長は「(ハリルホジッチから言われたのは)練習の質をもっと上げないといけない。もちろんコンディションも良くないし、フィジカルも弱い」と会談の内容を明かした上で、「コンディションが悪いのは分かっていたし、悪いところだけではない。昨日、あれだけチャンスも作っているし、何人かの選手は期待できそうだし。そういうことは言っておきました」と自身の見解を明らかにしている。なお、代表のタイトな日程に関しては「今までもJリーグとは話をしている」と述べるにとどまった。

ディスカッションは成立しているのか

ランニングをする森重。今大会のキャプテンにはピッチ外での役割も求めたい 【宇都宮徹壱】

 その日はゲームがなかったので、当地に来て初めて同業者たちと夕食を共にした。さすがに当地の脂っこい料理は飽きてきたということで、日式(日本食レストラン)の店に向かう。日式といっても、大衆的なものはたいてい現地の人が経営しており、味付けも中国人が好みそうなものになっている。余談ながら、こちらで飲む青島(チンタオ)ビールは日本で売られているものと比べて、かなりすっきりした味だ。むしろこちらがオリジナルのテイストで、これまでわれわれが飲んでいたのは日本の消費者向けにアレンジされたものだそうだ。

 焼き鳥をつまみながら話題に上るのは、やはり昨日の北朝鮮戦についてである。その場での一致した意見は「選手は監督の求めるサッカーしかできていない」というものであった。日本の直接の敗因は、早い時間帯で追加点が奪えなかったこと、そして縦方向への攻撃を意識しすぎたことで試合終盤にスタミナ切れを起こしてしまったことである。日程的にタイトであったこと、そして現地が蒸し暑かったことも理由に挙げられるだろうが、それらは最初から分かっていたこと。ならば、状況に応じた戦い方を選手は選択すべきで、時間帯によってはパスを回しながらゲームを落ち着かせ、暑さによる消耗を軽減する判断もあってしかるべきだった。実は当の選手たちも、そのことは自覚している。

「自分たちが判断して時間を作ることも必要だと思う。(監督の下で)やってきたのも短いし、まず監督が求めていることをやることが第一だと思う。その中でも、ああいう展開になるのであれば、自分たちの時間を作るべきだったかなと思います」(山口蛍)

「(相手の)裏のスペースは空いていたし、得点の機会も何度もあったので、(縦へ速くという)攻め方自体は間違っていないと思う。でも、そこの精度の部分は詰めていかないといけないし、しっかりゲームメークできることをしなければならない。試合を通して、自分たちの時間というものは少なかったと思う」(柴崎岳)

 いずれも、今日の練習後のコメントである。彼らもまた、縦方向一辺倒ではなく、状況に応じたメリハリのある戦い方の必要性を感じているのだ。とはいえ今大会は、国内組によるサバイバルという側面もあり、「できるだけ監督の要求するサッカーをしなければならない」という心理的なプレッシャーもある。自分たちの判断で方向性の異なるサッカーをすれば「次の招集はない」というリスクも覚悟しなければならない。それでも彼らには、指揮官に自分たちの考えをはっきり伝え、ディスカッションすることを強く求めたい。

 ハリルホジッチは「選手とはたくさんの話し合いをしてきた」とことあるごとに語っている。だが、本来の意味でのディスカッションがきちんと成立しているのか、いささか疑問である。監督の言葉に選手がただ頷いている状態は、話し合いでもディスカッションでもないし、ハリルホジッチ自身もそうした一方的な関係は望んでいないだろう。少なくとも、選手の考えをキャプテンが集約して 監督と意見交換するくらいのことは、あってしかるべきである。今大会で腕章を巻いている森重真人には、ぜひともピッチ外での長谷部誠の役割を求めたいところだ。

<翌日につづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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