財布のひもも緩む、サーキットの仕掛け=ル・マンの風 現地レポートVol.4

田口浩次

午後4時開始も飽きさせない

各メーカーやレースチームのプロモーション施設が並ぶビレッジではボディの左半分がレゴブロックで覆われた「ポルシェ911」が記念写真スポットに。スポンサーロゴマークまで見事に再現 【田口浩次】

 ル・マン24時間レースは水曜日から公式走行がスタートする。水曜日の午後4時〜8時の4時間がフリー走行。午後10時〜深夜0時の2時間が予選1回目。木曜日は午後7〜9時の2時間が予選2回目、そして午後10時〜深夜0時の2時間が予選3回目となる。つまり、他のレースとは違って、2日間にわたって3回も予選が行われる非常に珍しいレースだ。

 水曜日のフリー走行は、チケットさえ持っていれば、自分の席以外でも空いていれば見ることができる。そのため、予選と決勝で見る席とは違う場所へ行くことも、ル・マン24時間レースを見に来た観客の楽しみ方だ。
 人気が高いのは、トップスピードが出るユノディエール(約6キロのストレート)にある席と、ピットレーン出口の先にあるダンロップアーチ手前の席あたり。ここらはフリー走行が始まる頃にはすっかり満席状態。みんな楽しみ方をよく知っている。逆に言えば、初めて来た人でも、他の観客の集まりを見ていれば「ここが人気なんだな」と分かる。

 とはいえ、フリー走行が始まるのは午後4時。他のレースでは予選や決勝が終わっている時間だ。昼過ぎにサーキットへ到着しても、暇をもてあますほどの時間がある。しかし、ル・マン24時間レースは、そんな観客を飽きさせない仕掛けがたくさんある。そのひとつが、各チームに関連したショップなどが並ぶビレッジ(村)と呼ばれている場所で、今回そこで一番注目を集めていたのは、なんてことはない「ポルシェ911」。しかし、よく近づいてみると、実はこれ、ボディの半分がレゴブロックでできており、それに気づいた人が、写真を撮っていて、ちょっとした記念写真スポットになっていた。

歴代の優勝車両が並ぶゾーンでは、「フォードGT40」のように、ファンならずとも目がとまるような名車が! 【田口浩次】

 さらにゆっくりと楽しみたい人には、ル・マン24時間レースのマシンが展示されている博物館をお勧めしたい。大人の入場料金は8.5ユーロ(約1200円)と、円安基調の現在は高めに感じるが、その価値は十分にある。まず、入場すると出迎えてくれるのは、ル・マン24時間レースに逸話がある人々の紹介。ここで1920年代を席巻したイギリスのベントレー・ボーイズ(ベントレーのチームはこう呼ばれていた)、ル・マンにある常設サーキットの名前にもなったエットーレ・ブガッティ、ル・マンで6回優勝しているジャッキー・イクス、そのパートナーとして5回優勝しているデレック・ベルなど、数々の有名人の説明と、そのドライバーが使っていた道具などが並ぶ。

 人物紹介のコーナーを抜けていくと、ル・マン24時間レースがスタートした23年の時代を飾った車両たちが並ぶ。そうしたクラッシックなマシンたちを見ていくと、いよいよこの博物館の目玉でもある、歴代優勝車両たちが次々と現れる。ベントレー・ボーイズたちのベントレー、フェラーリ、ジャガー、フォード、ポルシェ、ルノー、プジョー、アウディ等々。その当時のポスターなどと一緒に数々の名車を見ていくだけで、あっという間に時が過ぎていく。

 そして、気分が十分に高まったところで、ル・マン24時間レースのオフィシャルショップへと入っていけば、ついつい財布のひもも緩んでしまう、という仕掛けである。ここでしか買えない品物ばかりな上、女性向けのウエアなども充実しているので、カップルや家族で行くにもお勧めだ。

最先端に敏感なル・マン市の歴史

多くの観客は1カ所に留まるのではなく、ある程度時間が経つと、他の場所へと移動。非常に近い距離でマシンを見ることができる 【田口浩次】

 こうして、たっぷりと時間を使ってさまざまな展示ブースや博物館を満喫してから、そのままコースを走るマシンたちを眺める、というのが、ル・マンならではの楽しみ方なのだろう。実際、サーキットでお約束とも言える男性グループたちに加えて、カップルや小さな子供と一緒の家族連れ、そして老夫婦が本当に多い。さらに驚いたのが、コースのすぐそばにテントを張った宿泊組がたくさんいること。日本でも鈴鹿サーキットなどでは、コース敷地外にキャンプサイトなどが準備されているが、ここル・マンではコース敷地内にテントを張っている人たちがいる。当然、24時間レースなのでマシンの走行音を子守唄に眠ることになる。

 聞けばル・マンという街は、1903年に人類初の動力飛行を成功させたライト兄弟を米国から招へいして08年にテスト飛行を成功させた歴史があり、23年からはル・マン24時間レースを開催している。つまり、最先端に敏感な人々が古くからいたわけで、そうした地域性もあって、この伝統的なレースは個性的なまま継続されているのかもしれない。
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