西武の正捕手が炭谷銀仁朗である理由 森友哉はこの高い壁を越えられるか?
年々大きくなる存在感
扇の要として存在感が高まりつつある炭谷。リードに加え、送球、ブロッキングも高レベルにある 【写真は共同】
正捕手にとって、それほどやるべき仕事は山積みだ。炭谷の場合、自宅で相手や自チームの資料を確認し、球場でランチを食べながら再チェック。ウエ―トトレーニング、アーリーワーク、試合前練習を行い、夜の本番に臨むのがスケジュールだ。
くしくも2006年にともに西武に入団し、現在ブルペン捕手を務める吉見太一は、炭谷のそうした姿を近くで見てきた。
「年々、存在感が大きくなっていますよね。ピッチャーはサインを任せて、信頼しています。だから、投げることに集中できる。スコアラーのところに行って、熱心に研究していますよ。相手の弱点を突きながら、ピッチャーのいい球を使っていると思います。キャッチャーはピッチャーの性格を知っていくことも重要ですけど、そういうことも行っていますよね」
フリーエージェント宣言をせずに1年契約で残留した今季、周囲から注目されたのが炭谷と森友哉の正捕手争いだ。だが、シーズン早々にして決着はついた。それはセ・リーグの本拠地で行われる交流戦で、炭谷がマスクをかぶり、森がライトの守備位置に就いていることが如実に物語っている。
先を見据え、投手を生かしたリード
「リードって形に表せないじゃないですか。スピードとか、変化球がどれくらい曲がるとかと違って」
炭谷と同い年、プロ4年目の十亀剣に女房役のリードについて聞くと、そう答えが返ってきた。今季4勝2敗と好調な右腕投手は、炭谷の捕手としてのすごさを間近で感じている。
「プロでは向こうの方が長くやっているので、『そういうことか』と気づかされることが多いですね。例えば僕がスライダーかなと思った場面でインサイドに真っすぐのサインが出たら、あとで意図を聞いたりしています」
2人で1組のバッテリーにあって、投手と捕手の役割分担は明確だ。マウンドからボールを投げ込みながら、チームにおける正捕手の重要性を十亀は強く感じている。
「僕は1週間に1回しか投げないから、言い方は悪いですけど、その場だけです。でも銀(炭谷)は1カード、3試合を考えています。僕が抑えることで、次の日に影響が出るようにリードしていますよね。そういうことを今年、顕著に感じます」
目の前の1試合を勝てばいいのか、同じ相手との3連戦を1セットと見て配球を組み立てていくのか。そうした違いが、炭谷のリードに深みを与えているのだ。
さらに言えば、日替わりキャッチャーと正捕手では、投手との関係性においても決定的な差異が生じてくる。十亀が続ける。
「銀とコンビを組んで4年目です。僕の性格と、どういうピッチャーなのかを分かってもらってきたから、今季こういう結果を残せているのかもしれないですね。信頼関係が変わりつつあると感じています。ピッチャーとキャッチャーは意思疎通できた方がいいですからね。『これを投げたい』とうときにそのサインが出たら、いいボールが行きます。逆に『えっ? それ?』ってなると、いいボールが行かないですから」
極端な話をすれば、投手がいい球を投げた場合、捕手は捕球さえできれば勝つことができる。外角低めにいくら速いボールを投げ込んでも、打たれたらその配球は間違いだ。逆に、ど真ん中に投げようとも、打者が見逃した場合、その球の選択は正しいことになる。リードの正解は結果論でしか語れないのだ。
相手を研究し、弱点を突くことは、プロの捕手なら大前提。それを踏まえた上で、いかに投手とコミュニケーションをとり、気持ち良く投げさせながら持ち味を引き出していくかがキャッチャーにとって大事になる。