“走れぬ虎”に足りない、感性を磨く場 指揮官が目指す機動力野球で浮上なるか
「100盗塁」目標も現実は……
8日のDeNA戦で三盗に失敗した福留。“機動力推し”を続けるチーム方針とは裏腹になかなか盗塁数は伸びない 【写真は共同】
威勢の良い“機動力推し”だが、これは決して今季に限ったことではない。和田監督は11年10月の就任会見で「現有戦力に少しのスパイスで優勝争いができる」と雄弁。自ら仕掛ける野球の実現を目指した。さらに監督2年目の13年の春季キャンプで「走塁革命」を掲げ、同年の秋季キャンプから野球日本代表「侍ジャパン」の内野守備・走塁コーチとして第2回ワールド・ベースボール・クラシックでの世界一に貢献し、「日本一の三塁ベースコーチ」とも称される、走塁のスペシャリスト・高代延博コーチを招聘(しょうへい)。しかし、毎年「今季は走る!」と言いながら、監督3年間のチーム盗塁数は65、81、55と決して多くない。特に昨季の55盗塁、成功率59.8%は、ともにリーグワーストだった。
迎えた今季、22日の試合終了時点の盗塁数は10とリーグ5位。勝敗度外視でさまざまなチャレンジが許されるオープン戦でも、16試合で計7盗塁。143試合換算で約63盗塁と、目標の「100盗塁」には遠く及ばない数に終わった。
要因は失敗を恐れた安全策
阪神・高代コーチも認める現役最高の“走り屋”巨人・鈴木尚広。今季も代走の切り札としてその健脚を披露している 【写真は共同】
そう高代コーチは話す。この考えに、宿敵・巨人の代走の切り札である鈴木尚広が同調した。通算210盗塁、成功率82%(19日現在)を誇り、高代コーチが「べらぼうに速い」と絶賛する現役最高の“走り屋”である。
4月17日からの伝統の一戦で甲子園を訪れていた鈴木にあらためて盗塁の極意を聞くと「経験値はありますけど自信はないです」と謙遜しながらも、「走塁、盗塁は意識を向ければ必ず上達する。どこまで意識できるか」と力強く話した。距離27.431メートル、時間にして3.4秒をめぐる張り詰めた勝負の世界。鈴木は「そこでしか分からない感性が絶対にある」と説くと同時に、その感性は「磨けます!」と断言した。
盗塁は、ただ走ればよいというわけではない。ピッチャーに合わせてスタートのタイミングを図ったり、カウントによって配球を読んだりと、どれだけ映像を見て研究しても、いくらベンチから見ても分からない感性の部分が求められる。そこを磨くには、実戦で経験を積むしかない。しかし、阪神の場合は“失敗すれば叩かれる”というファン、メディアの注目度もあり、どうしても安全策を選びがち。「シーズン30盗塁」の指令を受けた一人である大和は、スタートを切るのは「自己判断とサインが半々ぐらい」だというが、「(打順が)下位で次がピッチャーなら自重しなくちゃいけないし、上位だったらそこまでサインも出ないですし……」と吐露する。失敗を恐れての安全策。結果としてチーム合計で60盗塁前後に落ち着くのが、近年の傾向となってしまっている。