“走れぬ虎”に足りない、感性を磨く場 指揮官が目指す機動力野球で浮上なるか

ベースボール・タイムズ

走らない方が賢明な盗塁成功率の低さ

かつては5年連続盗塁王の赤星憲広氏を輩出した阪神だが、現在は盗塁数でもリーグ下位が続いている 【写真は共同】

 盗塁にチャレンジする回数の少なさも課題だが、それ以上に成功率の低さが問題だ。昨季のチーム盗塁成功率59.8%はリーグワースト(12球団中11位)。トップの巨人(77.3%)とはかなりの差があった。そして今季も対戦がひと回りする開幕5カード(14試合)を終えた時点で、盗塁成功率55.6%(9企画、成功5)。14日から19日までの6試合では5盗塁を成功(上本が4盗塁の活躍)させ、20試合を終えた段階(20日現在)での盗塁成功率66.7%と急上昇させたが、まだまだ不満の残る数字である。

 野球を統計学の観点から分析するセイバーメトリクスでは、どのプレーがどれほどの得点を生み出すのかを過去の統計から割り出しており、それによると盗塁の得点価値は0.17点となっている。安打が0.44点、四球が0.29点だということを考えると、盗塁は意外と得点への貢献度は高くない。2安打と5盗塁がほぼ同等という計算だ。にもかかわらず、盗塁刺はマイナス0.40点。セイバーメトリクスの観点から考えると、盗塁は失敗した時の損失が大きい。

 阪神が仮に5カード終了時点のペースでシーズンを戦い終えたとすると、51盗塁によって8.68点を生み出し、41盗塁刺によって16.4点分の得点機会を失う計算になる。昨季の59.8%、オープン戦の50%という成功率なら、走らない方が賢明だ。走れるチームを目指すのならば、最低限60%台後半の成功率、欲を言えば70%以上の成功率が欲しいところだ。

走れる選手はいる、あとは意識変化のみ

 4番にゴメスを配置する阪神打線だが、全体を見ると決して“重量打線”というわけではない。かつて5年連続盗塁王に輝いた赤星憲広氏のような偉才の持ち主はいないが、上本、大和、鳥谷の3人に加え、俊介、田上健一、荒木郁也、新人では江越大賀、植田海と俊足自慢の面々が控え、西岡剛も千葉ロッテ時代に2年連続盗塁王(05、06年)に輝いた過去を持つ。一発の出にくい甲子園を本拠地としているチームとして、機動力野球の輪郭は垣間見える。

 実際に足で勝利をもぎ取った試合もある。4月16日の中日戦(ナゴヤドーム)。同点で迎えた6回2死二塁の場面で、西岡のライト前ヒットで二塁走者・梅野隆太郎が果敢に本塁突入。クロスプレーとなったが、梅野が捕手のタッチをうまくかわして勝ち越しの1点をもぎとった。「勝負できるタイミングで来れるようになったのは成長の証」と高代コーチ。今後も“足”で勝利する試合が増えれば、選手の意識も変わるはずである。

 昨季のチーム盗塁数64だった楽天は、大久保博元新監督の下で、ここまで12球団トップの24盗塁をマークしている。意識を変えれば、盗塁数を増やすことは可能だということだ。開幕3連勝という最高のスタートを切りながらも、ここまで最下位争いを演じる和田阪神。現状、ゴメス、マートンの復調を待つしかチーム浮上の方法はないのか。それとも、宣言通りに機動力を生かした野球を目指すのか。“走れぬ虎”の変身は、果たして?

(取材・文:小中翔太/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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