“シャラポワ2世”の夢はかなわず 新たな誓いを胸に刻んだブシャール
完敗を喫した次代の女王
“次代の女王”と目されるブシャールだが、ウィンブルドン決勝ではクビトバに敗れ、惜しくも準優勝に終わった 【Getty Images】
彼女は“ポスト・シャラポワ”もしくは“シャラポワ2世”と呼ばれている。シャラポワとはもちろん、女子テニス界が生んだ最大のスター、マリア・シャラポワ(ロシア)のことだ。彼女の端正な容姿とスター然とした立ち居振る舞いが、シャラポワをほうふつさせるのは確かである。そのシャラポワが17歳にしてウィンブルドンで衝撃的な優勝を果たしてから、今年でちょうど10周年。“シャラポワ2世”が先達の足跡をたどるには、最もふさわしい年であった。
彼女は、2年前にこのテニスの聖地で“ジュニアチャンピオン”に輝いている。グランドスラムでは本選と並行し、同じ会場で18歳以下の選手たちによるジュニア部門も行われている。彼女はジュニアの頂点に立った時、栄光に身を浸す以上に「いつか、本大会でも優勝してみせる」との野心を強く心に刻んだ。
愛くるしい笑顔の下に秘められた野心
ブシャールはそれこそプリンセスのように、英国メディアから扱われた。彼女が決勝進出を決めた翌日には、地元紙『ザ・デイリー・テレグラフ』と『デイリー・メール』両紙の一面をブシャールが飾り、「プリンセス・ジェニーに声援を!」の見出しが躍ったほどだ。今や英国全土が、そしてテニス界全体がブシャールの“新女王戴冠”を待ち望み、その瞬間に向け着実に、物語と舞台をしつらえていくようであった。
実際にブシャールには、その資質が十二分にある。周囲からの期待や運命を受け入れる、覚悟と野心も既に備えている。ブシャールの“王女様気質”を物語るエピソードはあまたにあるが、分けても1年半前に行われたインタビューでの応対が印象的だ。「憧れの選手は誰か?」と聞かれた当時18歳の少女は、「シャラポワがウィンブルドンで優勝した時のことは、鮮烈に覚えているわ」と言いながらも、「彼女のことを尊敬しすぎたくはない。だって将来、ライバルになるんだもの」と断じたのだ。「ツアーで仲の良い選手は?」と問われた際も、「仲の良い選手は数人いるけれど、友人はあまり作りたくない。だってすべての選手は、ライバルでもあるから」とも答えている。彼女は愛くるしい笑顔の下に、勝負に徹しきる修羅の顔を秘めていた。
峻烈(しゅんれつ)な上昇志向とプロ意識はすぐに結果にも反映され、昨年1年間でランキングは147位から32位にジャンプアップ。今年に入っても成長曲線は急勾配の右肩上がりで、1月の全豪オープンでベスト4に進出すると、5月の全仏オープンでもベスト4。そして今回のウィンブルドンでついに、決勝にまで駆け上がってきたのだ。英国のプリンセスにあやかった名を持ち、女王になることを望まれた20歳は、テニスの聖地で戴冠の時を迎えようとしていた。