新たな「東京ダービー」に向けて=武蔵野・依田監督、町田・戸塚監督対談

宇都宮徹壱

準加盟チームには負けたくない!

町田の戸塚監督は、3年連続で地域リーグのチームをJFLに昇格させた手腕の持ち主 【宇都宮徹壱】

――依田さんは現役時代からJFLでプレーされてきたわけですが、今のJFLについてはどんなふうに見ています?

依田 最近は「J2へのステップ」ということで、JFLの存在はある程度、認知されていると思います。それに、大学やら企業チームやらプロを目指すチームやらがあって、バラエティに富んだ面白いリーグだなと。僕らは今のところ、現状のまま(上を目指さない)でやっていこうという方針なんですが、Jを目指す準加盟チームには、やっぱり負けたくはないですね。根本には「そのチームをリスペクトできるかどうか」というのがありますが、「このチームは上げさせたくないな」というのも、ないわけではない(笑)。サッカーうんぬんではなく、サッカーに向かう姿勢とか、そういう違いについては、僕らは割と感じていますよ。

戸塚 それはあるでしょうね。サッカー選手だったら、個人的にプロになりたい人もいるだろうし。上を目指すかどうかはチームの話だけど、やっぱり「こいつらには負けたくない」というのはありますよ(笑)。

依田 それは僕が選手に与えるモチベーションにもなっています(笑)。

戸塚 ただ、選手たちがこういうリーグを経験してJに行くのは、これはこれでいい経験だと思いますよ。やっぱりサッカーって、そんなに甘くないんだと。これがポンとJに行って、お金もらって「俺はプロだ」と。そうやってつぶれてしまった選手をいっぱい見ていますから。そうではなくて、こういう苦しいところで勝ち取っていくというのは、すごくいい経験になりますよ。

――チームとしては上を目指さなくても、選手個人にその気があればJに引き抜かれるケースってありますよね。Honda FCなんか“ひとり昇格”が多いわけですが、武蔵野の場合はどうなんですか?

依田 横河の社員じゃない選手については「シーズン終わったら、出て行きなさい」くらいの感じでやっているんですけど、去年は自分からJに売り込む選手は少なかったですね。昔はもっといたんですけど。22〜3歳くらいの選手でも、自分のことを冷静に見過ぎているんですかね。うちはJFL内での移籍はあるんですけど、自分で行くのが難しいと考えているのか、それとも限界を自分で作ってしまうのか。今、大分にいる鈴木慎吾なんかは、僕と一緒に関東リーグでやっていましたよ。ここのグラウンドが、まだ土の時代です。それ以来、出ていないですね、そういう選手は。

戸塚 そういう選手を出していかないとね。子供たちが「ああいう選手になりたい」とあこがれるような、そのチームのスーパースターという存在がね。それとJFLというカテゴリーについても、もう少し目につくところにあってほしいと思う。なんかJFLって、ちょっと禁欲的なイメージがあるじゃないですか(笑)。でも、地域リーグもそうだけど、好きな人は見に来るんですよね。そういう人たちをもう少し増やしたいし、盛り上げていきたい。そのためには、例えば東京のチームで優勝争いをするとか、そういうことができれば、もっと違った盛り上がりも出てくると思います。

やるからには優勝を目指す

“新東京ダービー”の第一戦は4月11日にキックオフを迎える 【宇都宮徹壱】

――いよいよ4月11日に武蔵野陸上競技場で「東京ダービー」が行われるわけです。武蔵野にとっては、佐川急便東京SC(現SAGAWA SHIGA FC)戦以来、3年ぶりになりますね

依田 でも当時はほとんど勝てなかったので、あまり良い思い出がないんですよ(笑)。ただ、戸塚さんがおっしゃるように、お互いがJFLの上位争いができれば、もっと盛り上がるとは思いますね。

――そこで、普段JFLを見ていない方にも分かるように、ダービーの見どころなどを教えていただきたいのですが。まずはホームの武蔵野から

依田 そうですね、武蔵野陸上競技場のローカルな雰囲気を楽しんでいただきたいです。その上で、どれだけわれわれが自分たちのサッカーを出せるか。僕らの「突破」が出せればね。

――あえて注目選手を挙げるとすれば、誰でしょう?

戸塚 左サイドに、いいのがいるじゃないですか。

依田 サイドバックの斎藤(広野)ですか。確かに、スピードがあって面白いですね。

――町田の方はどうでしょう

戸塚 やっぱり蹴り合いじゃなくて、サッカーをきちんとお見せしたい。「ああ、JFLでもこんな選手がいるんだ」とか「JFLだけど結構面白いな」という試合にしたいですね。でないと、お客さんは来ないですよ。スピードもテクニックも、ちょっとJよりも足りないかもしれないけど、でも「やろうとしていることは、はっきりしているな」みたいな。そこは武蔵野さんもこだわっているだろうし、僕らもこだわりたいところですね。

――そのころには、酒井と津田は復帰していますかね?

戸塚 まあ、そうですね。期待していてください。

――最後に確認の意味も含めて、両チームの今季の目標を教えてください

依田 JFLで、最後の最後まで優勝争いに加わっていって結果的に優勝できればと。あとは天皇杯出場です。今年、町田さんが出てきたことで「東京ダービー」がJFLを盛り上げるきっかけになればと思います。

――町田も当然、優勝を狙っていますよね?

戸塚 そうですね。やるからにはそこを目指して、やっていくしかないですよね。

※追記
 その後、4月4日と5日に行われた前期第4節で、武蔵野はジェフリザーブズと対戦して1−1で引き分け、町田はFC刈谷に0−3で敗れた。この結果、武蔵野は3位に、そして町田は14位に、それぞれ後退。11日のダービーは、お互い負けられない一戦となることは間違いなさそうだ。

<了>

■依田博樹/Yoda Hiroki
1975年6月14日生まれ。習志野高、中央大を経て1998年に横河電機入社、同好会サッカー部(当時)に所属。現役時代は、関東リーグ、全国地域リーグ決勝大会優勝などを経験し、2004年から3年間コーチを務める。2007年より監督に就任。

■戸塚哲也/Totsuka Tetsuya
1961年4月24日生まれ。読売クラブ(現東京ヴェルディ)などでプレーし、日本代表でも活躍した。監督としては、2006年にFC岐阜、2007年にはFC Mi−OびわこKusatsuをJFLに昇格させた。昨季より町田ゼルビアの監督に就任し、3年連続のJFL昇格を果たした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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