今日の推しメン#005「公式戦に出ても、まだまだ足りない。満足したら終わり」 福田陸人

チーム・協会

写真:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手やスタッフを“思わず推したくなるエピソード”について紹介する連載インタビュー「今日の推しメン」。第5回は、2023-24シーズンでもっとも成長した選手に贈られる「BREAKTHROUGH OF THE YEARS」を受賞した福田陸人(ふくだ・りくと)選手です。福田選手のラグビー人生におけるターニングポイントは、どこにあったのでしょうか。

“おばあちゃん孝行”ができた、えどりくでのリーグワンデビュー戦

現在入団3年目で、フッカーのポジションを務める福田選手。リーグワン初キャップを飾ったのは、今年4月27日に行われた第15節・三重ホンダヒート戦でした。「ラグビーの試合前に、ここまで緊張したのは高校1年生以来。スタジアムが慣れ親しんだえどりく(スピアーズえどりくフィールド)でよかったです。リザーブメンバーだったので出番は後半だと思っていたら、呼ばれたのは前半32分。これは完全にサプライズでしたね。一気に緊張が解けました」と回想します。

ボールを抱えて前へ突き進むパワフルなプレーが福田選手の持ち味 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

試合当日は、福田選手の晴れ舞台を見届けるため、福田選手の出身校である國學院大學栃木高等学校や明治大学のラグビー部のメンバーや友人たち、栃木に住む家族がえどりくに駆けつけたそうです。「両親やおばあちゃんが喜んでくれたことが純粋にうれしかったですね。『よくやった!』と声をかけてもらって、胸に迫るものがありました。試合後にグラウンドでおばあちゃんと一緒に写真を撮れたのも、いい思い出です」

写真提供:福田陸人選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

続く第16節・東京サントリーサンゴリアス戦では、スターティングメンバー入りを果たした福田選手。「まさか自分が先発に選ばれるとは思っていなくて。一緒に一列でスクラムを組むプロップの先発は紙森(陽太)選手と為房(慶次朗)選手。2人とも心強いチームメイトで、安心したのを覚えています」

これからのスピアーズを支えていく若手のフロントロー3人 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

試合の週には、練習外のタイミングでも時間を見つけては「ちょっと合わせよう」と誘い合い、3人で練習を重ねました。「『何かあればすぐ言って』と伝えて、小さなコミュニケーションを取るよう心掛けていました」と福田選手。初キャップのときのような緊張からは解放され、入念な準備の末に試合当日を迎えたものの「立ち上がりは流れがつかめず、自分のサイドを抜かれたこともあって悶々(もんもん)としました」と振り返ります。
「それでも試合に出ている以上は、何かしらの爪跡を残さないといけない。来シーズンを見据え、これからも試合に出てほしいと周りに思ってもらえるようなプレーを意識していました」と福田選手は言います。2023-24シーズン最終戦は、ラインアウトでもスクラムでも、とにかく強気でプレーをすると決めていたそうです。

第16節、秩父宮ラグビー場で大歓声を浴びながら入場する福田選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

思いの丈を伝えていなかったら、埋もれていたかもしれない

福田選手がラグビーを始めたのは小学3年生の頃。そのきっかけを尋ねると、「スーパーの掲示板に貼り出されていた宇都宮ラグビースクールのチラシです。親がスクールウォーズ世代でラグビーに親近感があり、体力があり余っていた僕にやらせてみようと体験会に連れていってくれたんです」と教えてくれました。
「ボールを持って走ったり、相手を倒したりすることは、普段の生活ではなかなかできません。ラグビーの面白みを感じました」と福田選手。それまで習っていた合気道と掛け持ちでラグビーを始めることに。中学3年生までスクールでバックスとフォワード両方を経験し、「高校では栃木県で一番強いチームに入ってプレーしたい」と意思を固め、國學院大學栃木高等学校ラグビー部の門をたたきます。
最初に任されたポジションはセンター。フォワードだろうと思い込んでいた福田選手は驚いたといいます。「緊張のあまり、めちゃくちゃなディフェンスをして僕のそばを何回も抜かれた光泉(カトリック高等学校)との試合は忘れられません。ギリギリ勝ちましたが、後で吉岡(肇)監督にこっぴどく叱られました。試合映像を振り返ったときも『おい、福田!』と何度もどなられて……」。以降、これ以上に怖い経験はもうないと思うようになり、試合で緊張しなくなったそうです。
自身の希望とはうらはらに、バックスとしてキャリアを積み、高校2年生になって初めての練習試合もセンターで出場。しかし、この日も残念ながら力を発揮できずじまい。そこで福田選手は、勇気を振り絞り行動に移しました。「フォワードをやりたい」という胸の内を、トレーナーを介して監督に伝えてもらったのです。
「あのとき、監督を恐れて思いの丈を伝えられていなかったら、バックスのまま埋もれていたかもしれません」

写真提供:福田陸人選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

気持ちは伝わり、福田選手はこれ以降フォワードとしてキャリアを積むことができました。「フォワードに移ってから、ボールをもらう回数が圧倒的に増えたんです。ボールキャリーが得意だったので、ボールを持ってこじ開けるようなプレーが自身に合っていたのだと思います」
その後、明治大学を経てスピアーズでラグビーを続ける福田選手。「僕はこれまで一度たりともラグビーをやめたいと思ったことはありません」と言い切ります。
「ラグビーを通じて多くの仲間に恵まれました。ラグビーの一番の魅力は、友だちがたくさんできることだと感じています」と笑顔を見せる福田選手。小学校時代一緒にプレーしていたチームメイトとはいまでも連絡を取り合い、地元に帰ったときには遊んでいるそうです。ちなみにスピアーズでよくつるむのは「(古賀)駿汰さんと(岡田)一平さん」とのことでした。

えどりくでの試合後、初キャップの感謝を述べる福田選手。向かって右側には仲良しの先輩・岡田一平選手の姿も 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

フッカーのチーム「クボタスピアーズ」に身を置いて感じたこと

スピアーズでは、シーズン後のクロージングセレモニー(選手が参加する納会)で活躍した選手に対して毎年表彰を行っています。2023-24シーズンに新設された、もっとも成長した選手に贈られる賞「BREAKTHROUGH OF THE YEARS」に福田選手が選ばれました。
「いつもお世話になっている後藤(満久)コーチに名前を呼ばれたときは、感無量でした。僕が成長できたのは、間違いなく後藤さんのおかげです」

後藤満久コーチ(写真右)からボクシンググローブの形をしたトロフィーを受け取った福田選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

選手時代にフッカーやプロップを経験した後藤コーチは、フロントローの選手を中心に個別フォローをしてくれるそう。「ユニット練習が終わると、参考になる動画や説明文を送ってくれるんです。それを見て僕がコメントを返し、理解の足りないところなどがあれば、次の練習日にマンツーマンでレクチャーしてくれます」
後藤コーチの偉大さは、丁寧な指導にとどまらないと福田選手。「試合前には必ず心のこもったメッセージを送ってくれます。後藤さんの熱量に触れ、人としても成長させてもらえています。足を向けて寝られません」
福田選手は同じフッカーのポジションを務めるチームメイトにも感謝しているといいます。フッカーのチームとも称されるスピアーズに身を置いて感じたこととは――。
「フッカーはプレーの起点で、重要なポジションだと痛感しています。世界や日本の最高峰で活躍するチームメイトが磨き続けてきた技術を間近で見られるのはスピアーズの特権。吸収することだらけで、毎日が勉強です」
また、「フッカーの先輩から学んでいるのは、ラグビーのスキルだけではありません」と続けます。「(デイン・)コールズさんやヒロ(杉本博昭)さんは、後輩の僕が質問する前に、自ら教えにきてくれます。面倒見のよさや、チームの雰囲気づくりのうまさも見習わなければ」。昨シーズンでスピアーズを退団したコールズ選手、杉本選手からのアドバイスはしっかりメモに残したという福田選手。「時折振り返って、忘れずにプレーしたい」と前を向きます。
「スピアーズでは年々成長できていると実感しています。特に昨シーズンは公式戦に出られたからこそ成長できた部分も大きいです。でも、まだまだ足りない。僕は満足したら終わりだと思っているんで」と闘志を燃やします。スピアーズという豊かな土壌から養分を取り込んで、ぐんぐん成長する福田選手。将来チームに欠かせない、大木のような頼れる存在になると確信しました。

スイーツ(ホワイトチョコ除く)に目がない福田選手。最近のお気に入りは「どらもっち」(撮影:せきねみき) 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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