今日の推しメン#003「パフォーマンスを上げてチームに貢献し、日本代表に」 藤原忍

チーム・協会

写真:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手やスタッフを“思わず推したくなるエピソード”について紹介する連載インタビュー「今日の推しメン」。第3回は、立川理道キャプテンが若手のリーダー筆頭候補として名前を挙げ、さらにエディー・ジョーンズ日本代表HCも注目の藤原忍(ふじわらしのぶ)選手です。ラグビーの話はもちろん、その見た目からは想像できない意外な特技も教えてもらいました。

「ボールがみぞおちに…」うれしさが一気に吹っ飛んだトライ

これまで「NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24」全節に先発出場し、スピアーズをけん引しているスクラムハーフの藤原選手。今季の試合で印象に残っているのは“クリスマスイブの悲劇”と化した第3節の静岡ブルーレヴズ戦、接戦の末勝利をつかみ取った第5節のコベルコ神戸スティーラーズ戦の2試合だといいます。

「第3節は最後の最後で相手にトライを許し、逆転負けした一戦です。自分がもっとメンバーとコミュニケーションを取っていれば、止められたトライだったんじゃないかと思っています。試合が終わってからも、しばらく反省しきりでした」

第3節の静岡戦、藤原選手はフル出場 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

試合終了直前に逆転勝利した第5節の神戸戦は「何よりも勝ち切ったことがうれしかった」と満面の笑みで語ります。この試合では、後半30分に本職がスタンドオフの岸岡智樹選手と交代しました。「岸岡さんとすれ違うときに『思い切ってやってください』と声をかけました。試合をしっかりコントロールしながらスタンドオフ(の立川キャプテン)とコミュニケーションを取り、最終的に勝利をつかめて本当によかったです」

トライの喜びもつかの間… 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

神戸戦では、前半26分に圧巻のトライを決めた藤原選手。「相手のファンブルボールをキャッチして自らトライできたのは、ボールを蹴った後のフォーメーションが決まっていて、その状況下で自分の仕事を果たせたから」と分析します。藤原選手がチームに大きく貢献したあのトライ直後、“まさかの出来事”が起こりました。うずくまる姿を見て心配したオレンジアーミーも多かったはず。

「完全に想定外で、めちゃくちゃ痛かった」と藤原選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

「グラウンディングした後、ボールがみぞおちに入ってしまって…。肋骨じゃなくてよかったです。『これはトライやー、きたきたきた!』ってワクワクしながら走っていたんですけど、トライできた喜びが一瞬で吹っ飛ぶぐらいの激痛でした」

神戸戦でのトライは、藤原選手のお母さんが現地で見届けていました。「スピアーズの勝利を心から喜んでくれました。あとは、ケガをしていないか心配してくれましたね。母はラグビーのことを分からないなりにいろいろと調べていて、試合のたびに連絡をくれるんですよ」と顔をほころばせる藤原選手。かつてジュニア・ジャパンのメンバーに選ばれたときも「焦らず、無理しないように。ケガをせずにプレーすることが大事だから」と温かい声をかけてもらったそうです。

高校で地元を離れ寮生活「偶然声がかかった」

大阪市出身の藤原選手は、小学校時代バレーボールに打ち込んでいました。「スパイクを打つ瞬間、相手が予測する逆のコースを狙うのが得意でした」。とっさの判断で相手の裏を突くセンスは、すでに子どもの頃から持ち合わせていたようです。

ラグビーを始めたのは中学1年生から。茨田北中でラグビー部に誘われ入部します。「相手をよけながらボールを持って走ることが楽しいし、パスもすぐできるようになって。ラグビーに向いていたんだと思います」と当時を振り返ります。

迷ったのちに、高校では親元を離れ、石川県輪島市にある日本航空高等学校石川での寮生活を選択。当時同校のラグビー部監督だった小林学先生が、大阪市の中学生が出場する大会を視察した際、藤原選手のプレーに目が留まり声をかけてくださったのだそう。寮生活の初日、見送りに来たお母さんに手を振った直後は泣きそうになったといいます。「もし辛いことがあっても、僕は何も言わずにためて頑張るタイプ。それを分かっていた母の『何かあったら言っておいでや』という一言が支えになりました」

最初こそホームシックにかかったものの、国際色豊かなメンバーに囲まれて楽しい寮生活を送った藤原選手。「スピアーズで一緒のアシペリ(・モアラ)やシオサイア・フィフィタ(トヨタヴェルブリッツ所属)に日本語を教えたら上手に話せるようになったので、基本は日本語でコミュニケーションを取っていました」

その後進学した天理大学でも寮生活を続け、2021年の大学選手権で日本一を経験。「雪の降る寒い中視察に来てくださり、天理大学ラグビー部に誘っていただいた小松(節夫)監督には感謝しています。天理での4年間の集大成で優勝できたことは、いい思い出です」

ラグビー人生におけるターニングポイントを尋ねると、こう即答しました。「高校で、寮に入ってラグビーを続けると決断したことですね。実は、小林先生は僕ではなく他の選手をスカウトするために視察に来ていたらしいんです。でも、たまたま声をかけてもらえた。地元に残ってラグビーをしたり遊んだりしたい気持ちも正直ありましたが、寮生活を選んで大正解。実家を出たからこそ、親のありがたみも感じました」

現在、藤原選手は5歳の女の子と1歳の男の子を持つお父さん。なんと特技は裁縫だといいます。「手作りが得意なんです。この前、子どもの洋服にワッペンを縫いつけましたよ!」

雑談しながら撮影。家族の話になると、自然と柔らかい表情に(撮影:せきねみき) 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

スピアーズでは、チームを引っ張る存在になっていることを自覚していると話す藤原選手。「スクラムハーフはフォワードとバックスをつなげる立場なので、フィールドの中で積極的にコミュニケーションを取って、リーダーシップを示していきたいです。自分の持ち味は、メンバーにエナジーを与えること。今季、パフォーマンスを上げてチームに貢献したうえで、日本代表になりたいと思っています」。目標を言葉にする藤原選手のすがすがしい表情が、目に焼き付いて離れません。

取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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