【中学野球部地域移行シリーズ 第4弾(後編)】「部活動」の受け皿をつくるために「習い事」へ
その本質を考えることが、地域移行をうまく進めるために不可欠だとスポーツ庁地域スポーツクラブ活動アドバイザーで長岡市でも部活動地域移行業務を担当する石川智雄さんは言う。
後編では、部活動の地域移行を進める上での具体的なポイントを聞いた。
(前後編の後編)
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部活動はなぜタダなのか?
前編では「うまい選手の引き抜き」という話もありましたが、以上のポイントを考慮せず、部活動の地域移行を指導者や保護者が“自分たちの都合”で行うと、そもそもの地域移行の目的とズレてくるということですか?
石川 その通りです。自治体が明確な方針を出せないなか、大人の「勝ちたい」という思いが先行したチーム編成を進めようとする人がいます。そうなると、選手の引き抜きも発生する。
ボーイズやリトルシニアなど硬式チームに参加できる環境の子たちだけが野球をするような状況になると、野球人口の減少や野球ファンも減っていく心配があります。
―硬式チームはハードルが高いけど、部活動の軟式なら続けたいという中学生はたくさんいます。中学野球部に所属していた選手の受け皿をつくらないと、野球界にはさまざまな影響が出そうですよね。
石川 例えば、「うちは中体連の大会に出なくてもいい」という軟式クラブをつくるのもアリだと思います。硬式で頑張りたいという中学生は一部で、軟式でもより高い技能の習得を目指す集団の中で自分を高めたいと思う中学生もいるわけですから。
―「Homebase」では埼玉県の川口クラブを取材しました。運営する上ではお金の問題が出てくるようです。どうすればいいですか。
石川 国の支援は、いつまでもそれほど手厚く行われるわけではないと考えられます。
でも小学校のスポーツは当たり前に月謝制で、習い事のようになっていますよね。各チームにはボランティアの指導者もいますが、「ボランティアの限界」とも言われてきています。
限界というのは「ボランティアでもいい」という指導者もいる一方、なかには「俺はボランティアでやっているんだから、周りが口を出すな』と好き勝手にやっている人もいると聞きます。そう考えると、指導者に対する生徒な対価の必要性が求められる時代になっているということです。
今の時代、ボランティアの指導者だけで運営していくのは難しいと思います。そうなると当然、月謝は発生しますが、習い事にお金をかけることは当然と考えている人もかなりいるんですよね。
―子どもの頃からスイミングスクールには月謝を払って通う一方、「少年野球や野球部で教わるのはタダ(あるいは少額の部費)」と考えてしまいがちですよね。
石川 「部活動」というイメージがいつまでも残っているから、そう考えてしまうわけです。
当市の実施したアンケートでは、小学校で習い事に月5000〜1万5000円かけている家庭の割合が多い一方、「中学校の地域クラブ活動を行う際、月謝はいくらがいいですか」と聞くと、「2000〜3000円」となる。それは「部活動はタダ」というイメージが残っているからです。学校の先生が部活動の一環で行っている、という捉え方があるのでしょう。
ある自治体は部活動の地域移行を進める上で、「部活動から習い事という考え方の変換が必要です」と言っています。そうすると月謝を払う抵抗感はなくなり、塾まではいかないけれど、スイミングスクールに行っているようなものという感覚になれば別に月謝5000円でも高く感じないと思います。
指導者&送迎の問題
石川 中学校の先生が中心になって指導するクラブの場合、やがて管理職になる年齢になっていきます。
今、若い先生では野球経験者がどんどん減っているので、比例して指導者として頑張っている人の年齢層はどんどん上がっています。昔に比べて野球人口が減っているなか、サッカーやバスケットボールをやっていたという教員が割合的にも増えてきていると聞きます。
部活動の受け皿として子どもたちがスポーツをできる環境をつくりたいと、頑張っている教員はたくさんいらっしゃいます。
そうした先生は年齢とともに学校での立場も変わっていくので、教員以外の人をクラブの指導者に巻き込んでいけるかをテーマにしていけば、いい形で続いていくと思います。
―学校の先生たちのなかには「部活動はタダで誰でも参加できるのがいい」と言う人もいます。
「部活」から「習い事」に発想を変えるのは持続可能性として必要でしょうが、経済的に恵まれない家庭の子が地域移行で「習い事化」しても競技を続けていけるように、国としてどう補助しようかという話は出ていますか。
石川 出ています。実証事業という形で行っているケースにはすべて補填しています。教育委員会が中心になって自治体が市民サービスとして提供していく地域クラブと考えると、経済的に支援が必要な家庭への補助はどこの市区町村でも一番のポイントになります。仮に国や県から支援が終了したとしても、住民と直接接する市区町村は何かしらの支援を継続する方法を考えていくことでしょう。
送迎の問題もあります。特に地方では電車が通っていないところもあるし、バスも運転手不足でどんどん本数が減っています。
まして新潟のような雪国では、冬場は自転車を使えません。親が送れなくて通えない場合、地域クラブでは活動をできない子をどうするか。
もし国や行政の支援がなくなると、スポーツ人口や文化芸術に携わる子が大きく減ってしまう心配があります。それは避けないといけない。経済的に支援が必要な家庭や、送迎の問題がある家庭への支援は絶対にしていく必要があります。
―長岡市ではどのように考えているのですか。
石川 隣の市町村と一緒に、市町村の枠を超えて子どもたちがやりたい種目をできるような体制をつくれないかと動いています。小さい市町村単体では、できることが限られます。
例えばどうしても、「野球をやりたいけど、うちの町には一つの学校しかなくて生徒の人数が少ないから、うちの町でクラブをつくっても続かない」というところが結構出てきますよね。でも隣の市町村と協力すれば、子どもたちがやりたい種目をできる環境を整えられます。
市区町村が資金の税金を使って地域クラブの制度をつくるので「よその市区町村から来た子には助成できない」となってしまうけれど、「その壁を乗り越えないといけない」という話を私はさまざまなところでしています。
新潟県では、「来年から、エリアで話し合いをするようにしましょう」と県が言ってくれました。
子どもたちの選択肢をどう創出するか
石川 もし県が助成金を出さなくても、例えば「うちの町には野球クラブがないから隣の市の教室に行きたい」となった場合、隣の市の制度に行く子に対し、その子が住んでいる町が補助してあげればいいわけです。
―交通費補助のようなことですか。
石川 そうです。制度は市区町村で違うけれど、制度が違う市区町村の教室に行ったときにお互いの了解が得られれば、自分の市区町村の子どもに補助してあげてください、と。
でもどこも、そこまでまだ考えがいっていません。自分のところをどうやってつくろうかというのが先に来るので。
―現状、中学野球には硬式のボーイズやリトルシニア、ポニーなどのチームがあります。彼らは彼らで活動し、一方で部活動の延長でそこまでハードにはやりたくないけど野球を続けたい子が地域でプレーできるような選択肢をつくってあげられればいいですね。
そういう子がもし硬式チームに来たら、受け入れてあげてくださいねという感じでいいですか?
石川 それでOKです。各自のニーズに応じた場を設定できればいいわけです。
個人的にあってもいいなと思うのは、軟式からトップを目指せるようなもの。川口クラブが最初にスタートしたようなイメージですね。
―川口クラブはもともと市の選抜チームとして始まりました。
石川 全軟連(全日本軟式野球連盟)は選抜チームをまだ公的には認めていません。
以前、KB連盟が開催していた秋の大会を今、伊豆で行っていますが、選抜チームで出場できる機会と捉えてもいいと思います。軟式野球を地元の地域クラブでやっている子で、「もう少し上で楽しみたい」という子にそういう場を用意してあげられればということです。
要はトップを目指したい子たちの場もあって、野球人口減少の抑制につながる地元チームも近くにある。さらに、その上のレベルには硬式チームがある。「上と下」の「真ん中」を軟式でつくれないかと思います。そうなると、いろんなニーズに応じた環境づくりが進むので。
もし選抜チームが難しければ、部活動から高校より先で伸びるために長岡市が考えて実施しているような、希望する子どもが集まって技術練習会をセントラル方式で開催する。
それなら講師も少なくて済みます。「今日はバッテリー」「今日はバッティング」「今は冬の時期なのでトレーニング」とテーマ別に開催すればいい。
長岡市には地域のクラブ以外に、「野球協議会」といって硬式の高校から学童野球まで全部一緒になった市の協議会があります。
そこでオフシーズンを中心に月2回ぐらいポジション別に開催するとか、今回はメンタルトレーナーを呼ぼうという機会を用意してあげれば、そこで身につけたことをもとに高校より先になって自分で選択できるような道をつくってあげられます。同時に、他のチームから選手を引き抜いたりしないような発想にもつながるのではと思います。
(文・中島大輔)
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