小笠原満男 アントラーズOBの今「アントラーズがさらに強くなるために。危機感を胸に、未来へ向けて今と向き合う」【未来へのキセキ-EPISODE 28】

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 現役時代とは違った形で、多くの時間をフットボールに費やしている。

「朝から晩まで、1日7時間サッカーした日もある。現役のときよりプレーしているかもしれない(笑)。膝は治ってコンディションもバッチリ。一緒にプレーして魅せることが大事かなと思って日々を過ごしています」

 アントラーズの主力となる選手を輩出するために、育成年代と向き合いながら全力を捧げる日々だ。

 2018年12月27日、現役生活を終える決断をした。引退会見では、「アントラーズがさらに強くなるために」という言葉を残し、その後のセカンドキャリアスタートまで少し時間があいた。その経緯について小笠原はこう振り返る。

「現役時代は1年間、イタリアのメッシーナに行きましたが、自分は良くも悪くもアントラーズしか知らなかった。そのなかでいろいろなチームのやり方や考え方を知ることで、自分のなかで幅を広げたいという思いがありました。引退してからはまず、J1からJ3、そしてアマチュアから街クラブまで、たくさんのチームを見させてもらいました。いろいろな人に話を聞いて学びたいという一心でした」

 北は北海道から南は宮崎まで。自ら足を運んでさまざまなクラブを見て回った。これまで選手の立場で見ていたものが、一歩引くといろいろな発見があった。

「これまでは〝いい選手いるかな?〟という視点で見てきたものが、指導者の方がどう声かけをしているのか、試合に向けてどういう準備をしているのか、スタッフが選手に水を渡すタイミング、戦術の落とし込み方など、見える角度が変わってすごくおもしろかった。みんな勝つための工夫をしていて、いろいろな考え方があることを知ることができたし、どういう思いでやっているのか、たくさんの人と話すことでいろいろなヒントが見えてきた。そういうなかで、だんだん自分の望む方向や気持ちが固まっていきました」

 2019年3月8日、鹿島アントラーズアカデミー・アドバイザーに就任し、スクールからユースまで育成部門の全カテゴリーに対し、これまでのプロ経験を生かして実技や指導等のサポートを行う役割となった。

 まずはアカデミーを知ることから始まった。一番忙しい日は、5時半にユースの朝練習、午前中にユースの通常練習をして、昼にスタッフゲーム、午後にジュニアユースの練習、夕方からはスクールに行き、目まぐるしく終わる日も多々あった。

「練習を見ていても、〝こいつはおもしろくなりそうだな〟と目につく選手がいるんです。体が成長する時期ということもあって、1カ月見なかった子が、次に見るとスピードがついていたり、力強くなっていたり。技術的にもできないことができるようになったりと、成長速度がものすごく速い。それは見ていてとにかく楽しいし、そういう子を実際にトップに上げて活躍する姿を想像したらワクワクするんですよ」

 日々、向き合う子どもたちとの接し方は、今も試行錯誤するところだ。

「子どもを持つ親はみんなそうだと思いますが、常に何が正解かを探りながらです。子どもによって対応を変えなければいけないこともある。そこはやりながらですが、その答えが見つからないからこそ、育成は難しいなと思います。そこに関しては、自分も子どもを育てていますが、すでに育成で多くの指導をしてきた監督コーチがいるので、そこは勉強しながらです」

【©KASHIMA ANTLERS】

 2020年からはテクニカル・アドバイザーとして、ユースを中心に育成年代の指導を続ける。合間を見て他の育成カテゴリーの練習に顔を出し、土日はユースの試合に帯同。その他にもユースのミーティングに参加しながら、週に一度、アカデミーのマネジメントスタッフに加え、トップチームの強化担当とスカウト、そしてアカデミーを担う監督コーチによる、テクニカルミーティングに参加する。最近ではピッチ外での仕事も増えた。その一つが映像編集だ。

「練習中にその場で声をかけるのが一番だけれど、ミーティングなどでも映像を使って伝えるようにしています。起きていることを目で見て確認して、また練習に向かう。それが一番分かりやすいですから」

 練習映像のみならず、アントラーズのトップチームの試合映像やヨーロッパのトッププレーヤーの映像も参考にする。一貫性のある指導体制実現に向けて、アントラーズのフットボールを言語化するとともに、映像を用いて2020年に作成された「アカデミーDNA」でも、その腕は生かされた。過去のアントラーズOBのプレー映像を集めたものは、「さすがの映像選定」と長年在籍するスタッフが舌を巻いたほどだ。

 また現代サッカーのトレンドを見るべく、さまざまな試合に目を通すようになった。ヨーロッパの最先端を見ながら、アカデミーの各年代の試合映像、さらにはユースが対戦する相手の試合を見ることも欠かさない。2019年にはジュニアユースのブラジル遠征に帯同し、現地のトップレベルを体感。さらにフラメンゴ、サンパウロ、フルミネンセ、パルメイラスなどの施設を見て回った。世界のクラブはどうなっているのか。自ら見て感じて、本や記事を読んでは考えを巡らせる。

「現役時代は試合や記事などはまったく見なかったけれど、最近は高校サッカーから海外のサッカーまで、いろいろと見るようになりました。世界のトレンド、流れを知るためにいろいろ見ていますよ。チャンピオンズリーグも見ているし、プレミアリーグ、スペインリーグ、フランスリーグも見る。ユースもジュニアユースもジュニア、それこそ幼稚園生の試合を見ることもあります。今、俺が一番サッカーを見て、一番サッカーしているんじゃないかと言えるくらい(笑)。ここまでいろんなカテゴリーでサッカーをして、いろんなカテゴリーのサッカーを見ている人はいないと思う。いろんなことが勉強になるし、気づきにもなる。どれを見てもやっぱりおもしろいんです」

【©KASHIMA ANTLERS】

 アカデミーを知り、ユースはじめ指導の日々を積み重ねて3年が経とうとしている。今、見えてきたことがある。

「今の選手と話していてもそうですが、間違いなく目はヨーロッパに向いています。スクールを回っても、子どもたちに“好きな選手は?”と聞けば、悲しいけどアントラーズの選手ばかりではない。移籍が多くなった今の時代に、今後どう勝ち続けていくのか。その今のサイクルについていくために、自分の立場でやれることは次々とトップに主力となる選手を送り込む準備をすること。これが何より大事だと思っています。トップの選手が移籍で抜けても“すでに次がいますよ”という状況を作りたい。そうなっていかないといけない」

 世界の潮流を見ているからこそ、描く理想も具体的だ。

「もっと言えば16歳、17歳でプロデビューするような選手が出てこないといけない。高校3年で卒業してプロになれるかどうか、ではないんです。世界を見れば、ドルトムントでムココ、レイナ、ベリンガムが、バイエルンでムシアラが17歳で試合に出て、チームの主力になっている。今年になって、史上初17歳でフランス代表デビューしたカマヴィンガがレアル・マドリードに18歳で移籍。最近だとバルセロナのガビが17歳でスペイン代表デビュー。それをスタンダードにしていかないといけない」

 17タイトル。現役時代、日本でもっともタイトルを獲得した選手だ。1998年にアントラーズに加入すると、年代別代表から日本代表にも選ばれ、W杯は2度経験。〝うまい選手〟ではなく、〝勝てる選手〟を体現してきた。立場は変われど、アントラーズの勝利のためにという目指すところは変わらない。

「もっといろんな発想を持たないといけないし、いろんなものを見る必要がある。これまでタイトルを獲ってきたことで満足していたら、置いていかれるだけ。どのチームもいろんな工夫をしているから、あっという間に抜かれてしまう。3連覇とか、3冠とか、終わったことはどうでもいい。これからどう勝っていくのか。そのために何が必要なのか。それが大事だと思います」

 目指すところの本質は、現役時代と変わらない。〝ダメならポジションを奪われる〟という危機感から、〝このままでは普通のチームになってしまう〟という危機感へ。このままではいけない。もっともっとやるべきことがある。

 小笠原が見据える未来への軌跡は、危機感に満ちあふれている。すべてはアントラーズの未来の勝利のために、今を積み重ねている。

小笠原満男TAも出場!12/26(日)にスペシャルマッチ開催!ふるさと納税型クラウドファンディング開催中!

【©KASHIMA ANTLERS】

内容:アカデミー vs OBスペシャルマッチ観戦(3万円〜5万円コース)
詳細:アントラーズの伝統をつくりあげてきたOBたちが、将来、アントラーズの選手としてプレーすることを夢みるアカデミーの選手たちと対戦
※チケットの一般販売や動画配信の予定はありません。寄附者限定で観戦できるスペシャルマッチとなります。

開催日:2021年12月26日(日)予定

13:00〜13:30 U13アカデミートレセンvsOB
13:40〜14:10 U14アカデミートレセンvsOB
14:20〜14:50 U15アカデミートレセンvsOB
15:00〜15:30 U16 ユースvsOB
15:40〜16:10 U17 ユースvsOB

出場予定現役選手:遠藤康、土居聖真、町田浩樹、上田綺世、沖悠哉、染野唯月、山田大樹、舩橋佑
出場予定OB:本田泰人、秋田豊、名良橋晃、本山雅志、新井場徹、野沢拓也、青木剛、内田篤人、柳沢敦、小笠原満男、曽ケ端準、中田浩二ほか

※出場予定OBは随時発表予定
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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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