アントラーズがアントラーズであるために。これまでを定義し、これからの指針とした「アカデミーDNA」とは。【未来へのキセキ-EPISODE 18】

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 アントラーズがアントラーズであるために。
 鹿島アントラーズは昨年、後世に継承していくクラブのベースを整理するとともに、今一度これまで築き上げられたものを整理した。それが「アカデミーDNA」だ。

 2020年1月。アカデミーのマネジメントスタッフに加え、トップチームの強化担当とスカウト、そしてアカデミーを担う小笠原満男テクニカルアドバイザー(TA)、黒崎久志テクニカルコーチ(現山東泰山トップチームヘッドコーチ)、里内猛ヘッドオブコーチング、柳沢敦ユース監督(現在不定期参加)などで構成されるメンバーによって、テクニカルミーティングが新設された。週に一度、アントラーズとはどんなフットボールを表現してきたのか、そして今後に向けて何を変化、進化させ、何を継続することを目指していくのか、良い選手の積極的な飛び級の実践や各チームの課題共有、一貫性のある指導体制実現に向けて、アントラーズのフットボールを言語化するとともに、映像を用いて議論を重ねた。

 アカデミーでは、スクールからユースまで、どのスタッフも土日は試合、平日は日々の練習がある。朝から晩まで選手指導に始まり、子どもたちの状況把握から保護者とのやりとり、イベントがあれば運営指導とともにレポート作成、中長期的にどう進めていくかの検討や大会運営など、日々クラブの未来のために尽力している。ジーコTD(テクニカルディレクター)もアカデミーの存在について、その重要性を語っている。

「やはりアカデミー出身選手がトップで出場して活躍し、クラブに結果をもたらすということは非常に重要なことです。アントラーズは日本代表にもっとも選手を送り込んだクラブでもあり、その歴史を閉ざしてはいけません。その意味でアカデミーは責任ある存在なんです。アカデミーに携わるスタッフは、本気で真剣に携わる人々で構成されなくてはいけません。その情熱が直接的に子どもたちに伝わり、クラブの将来を担うベースを築くための活動になります。アカデミーの活動は、そう簡単なものではありません」

 そんなアカデミーコーチの活動指針として活用できることを目指し、クラブ創設30周年を迎えようとするタイミングでアカデミーDNAの作成が始まった。アントラーズを体現するようなプレー。クラブを象徴する試合。言語化の最適な表現。イメージしやすいプレー映像。その実現までに、テクニカルミーティングでの議論は20回を超えた。

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 ジーコTDがクラブに植え付けた「ジーコスピリット」をはじめとする、チーム、スタッフ、選手、アカデミーのあり方、鈴木満FD(フットボールダイレクター)の長年にわたるチーム編成における留意点、椎本邦一チーフスカウトのスカウト時に選手へ求める資質、里内猛ヘッドオブコーチング(当時)のチームスタッフにおける考え、小笠原TAをはじめアントラーズOB選手による在籍時の戦い方や各ポジションごとのプレー映像などについてをまとめた。

 映像は小笠原TAが中心となって、柳沢ユース監督、中田浩二C.R.O、根本裕一など元選手たちがまとめた。パソコンを使いこなし、映像ソフトで過去のアントラーズを表現する象徴的なプレー映像を編集。実際にピッチでクラブの象徴として体現してきた男が映像を選び、どう見せるかをテクニカルミーティングで提案する。それを見ながら議論を重ね、修正に修正を重ねて完成させた。クラブ創設時から携わるアカデミーチーム・マネージャーの高島雄大は、その姿に賛辞の言葉を並べる。

「小笠原TAたちが編集した映像は、“ここ”というポイントをつかんだものでした。ミーティングでなんとなく『あのときのあのシーンがあったよね?』というものも、うまく探して映像にまとめてくれました。ピッチ上で感じていたことをいかに資料として落とし込むか。その目的に沿った、さすがの集約と選定でした」

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 DNAとは「遺伝子」と解釈される言葉であり、生命体を形成する上で欠かすことのできないものとして表現される。アントラーズでもそのユニフォームをまとう選手の基礎として、アカデミーDNAの具現化は未来に向けて欠かすことのできない作業だった。

 一例を紹介する。まず初めに挙げたのが行動規範。その土台は、ジーコスピリットと呼ばれる「献身・誠実・尊重」の3つの言葉だ。「忍耐・謙虚・感謝」とも言い換えられるそれらの言葉は、アントラーズファミリーに結束力、一体感、そして勝利への執着心を植えつける上での指標ともなっている。常に献身的な姿勢を持ち、人や仕事に対して嘘なく、尊重の念をもって接することが、アントラーズの選手たち、そしてクラブスタッフの掟でもある。

 アカデミー出身の現役選手たちも、プレーの礎となる精神面の重要性を説く。

「アカデミーのときから、“どんなときも90分間、勝利のために犠牲心を持って戦え”ということをずっと口酸っぱく言われてきました」(土居聖真

「嘘をつかず、真っすぐに生きること。何事にも誠実さを持って取り組むこと。プロになるために、いろいろなことを犠牲にしてサッカーに費やすこと。そうした人間性を教わりました」(町田浩樹

「どの年代においても、アカデミーの監督やコーチが求めていたのは精神力の強さや人間性の部分でした。振り返れば、サッカーのこと以上に、人間性の部分を教わってきたように思います。日常生活もそうですが、ピッチ内外での挨拶や礼儀、感謝……それを鍛えられたというのではなく、自然と身につけていったことで、サッカーも比例してうまくなっていったように思います」(沖悠哉

 土居聖真、町田浩樹、沖悠哉の証言からも、クラブ全体にジーコスピリットが浸透していることが分かる。

 その上で、フットボールの本質と勝利を追求するピッチ上でも、選手たちに求められていることがある。アントラーズでは“練習こそが勝負の場所”という考えのもと、「トレーニングでの必要な心構え」が表現されている。

 試合に出るための競争と勝つための結束。
 選手個人の自己主張とチームのための自己犠牲。

 一見、矛盾しているようにも思える2つの逆説的な要素。そのバランスが絶妙に調和し、トレーニング中から独特の“空気感”を生み出すことにつながる。これこそが、数々のタイトルを獲得してきたアントラーズが大切にしてきた伝統でもある。

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「自分も今では選手の前で話すことが多くなりました。“プロはこういうものだよ”、“W杯はこういうものだよ”、“そのためにはこういうプレーが必要だよ”ということを日々伝えています」(小笠原満男TA

「自分たちの経験を伝えらえることは、クラブとして武器の一つだと思います。押しつけるわけではなく、“もっとこうした方がいいのではないか”、“こういうことがあったからこうした方が良い”とか、選手が興味を持つような話ができれば、選手たち自身にとってもすごく刺激になるのではと思います」(柳沢敦ユース監督

 現在、後進の指導にあたる小笠原TAや柳沢ユース監督らは、言葉で教え、ピッチ上の現象に気を配り、自らの経験を伝えている。それは、多くのトップチームOBが顔をそろえる、アントラーズアカデミーの強みでもある。

 ジーコTDがクラブの発展に全身全霊をかけたことから始まり、脈々と受け継がれてきたアントラーズのDNA。勝ち続けるクラブであるために、それは深紅のユニフォームをまといし者の血となり、骨となり、肉となり、未来のアントラーズを支えていくことにつながる。

 アントラーズDNAによって、今後に向けたこれまでが整理された。その共有をもとに、また新たなDNAを受け継ぐ伝道師たちが育まれていく。


12/26(日)にスペシャルマッチ開催!ふるさと納税型クラウドファンディング開催中!

【©KASHIMA ANTLERS】

内容:アカデミー vs OBスペシャルマッチ観戦(3万円〜5万円コース)
詳細:アントラーズの伝統をつくりあげてきたOBたちが、将来、アントラーズの選手としてプレーすることを夢みるアカデミーの選手たちと対戦
※チケットの一般販売や動画配信の予定はありません。寄附者限定で観戦できるスペシャルマッチとなります。

開催日:2021年12月26日(日)予定

13:00〜13:30 U13アカデミートレセンvsOB
13:40〜14:10 U14アカデミートレセンvsOB
14:20〜14:50 U15アカデミートレセンvsOB
15:00〜15:30 U16 ユースvsOB
15:40〜16:10 U17 ユースvsOB

出場予定現役選手:土居聖真、町田浩樹、上田綺世、沖悠哉、染野唯月、山田大樹、舩橋佑
出場予定OB:本田泰人、名良橋晃、本山雅志、野沢拓也、青木剛、新井場徹、内田篤人、曽ケ端準、柳沢敦、小笠原満男、中田浩二ほか

※出場予定OBは随時発表予定
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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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