「ピンチと思うな。チャンスと思え」。今こそベテラン鳥谷の言葉が響く

千葉ロッテマリーンズ
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【8月のホークス戦 激走しサヨナラのホームを踏んだ鳥谷】

  背番号「00」が遊撃のポジションについた。10月27日のホークス戦(PayPayドーム)。そこは慣れ親しんだ場所。これでショートでの出場が通算1767試合目となり、遊撃での出場が石井琢朗氏(元横浜)が持つ日本プロ野球歴代1位記録に並んだ。10月25日のバファローズ戦(京セラドーム)ではプロ野球史上46人目の通算350二塁打を達成したばかり。鉄人は移籍後も記録を塗り替え続けている。
 
 「正直、個人的な記録に関して特にこだわりもなければ、興味もないです。ただ、これは積み重ねで、続けてきた事が結果につながったと思う。自分ではどうこうしたいという想いはなかったのですけれど、マリーンズに拾ってもらわなければ記録はなかった」と350二塁打を達成した時、鳥谷は語った。

 クールな鳥谷は記録達成でもやはりクールだ。しかし、激動の一年を乗り越えての記録であることもあり、少しだけ顔が緩んでいるようにも見えた。

 「ピンチと思うな。チャンスと思え」。鳥谷の座右の銘である。

 「小学校の時の野球チームのコーチが卒業の際にボールの寄せ書きに書いてくれていたもので、その時は深くは感じていなかったけど、中学か高校の時に部屋の整理をしていてこのボールが見つかり、この言葉が目に留まった。嫌な事があったり、なにか厳しい状況に置かれた時にこの言葉を思い出す」
 
 まさに昨今の鳥谷の生き方を表すような言葉だ。昨年オフにタイガースを退団。長い空白期間を経て3月10日にマリーンズと契約を交わし入団を発表した。退団後、公の場に姿を見せることのなかった鳥谷。ようやく戻ってきた表舞台だった。

 所属チームが決まらない日々。年末年始こそ練習相手もいたが2月のキャンプインのタイミングからはキャッチボールの相手すらいなくなった。誰かにお願いをすれば手伝ってくれた人もいたはずだ。ただ、人に迷惑をかけたくはない。野球界以外の仲間にもそれぞれの仕事がある。だから自分からお願いすることをよしとしなかった。自宅横の急坂を黙々と走り、自宅の敷地内で柔らかいボールを使ったティー打撃で感覚を確かめた。一番の日課は自宅のガレージでの壁当てだった。そんな苦しい状況下を鳥谷は笑って振り返る。それはまさにピンチをチャンスと捉えた結果に思える。

 「ボクはマリーンズに入る前に練習をする場所もなければ、相手もいない時期を過ごした。その経験は自分にとって大きかった。今までいかに恵まれていたか。限られた条件の中で何が出来るか、自分のベストはなにかをつねに自問自答をした。そういう事を考えて行動に移した時間はとても大事な事だと分かった。今、なにが出来るか?何をしたか?それを考えるだけでも今後に繋がる事を知った」

 早稲田大学を卒業して16年間。2000本安打を達成し虎のレジェンドと呼ばれた。名門球団のスターとしてプロ野球の第一線で羽ばたき続けていた男は今年の2月、孤独の真っただ中にいた。それは自分自身と向き合う作業を繰り返す日々であった。支えは周囲の声だった。

 「家族を含めた周りの方の存在は大きかった。自分以上に現役を続けて欲しいと思ってくれている人たちが沢山いた。気持ち的にはそれが一番だった」

 野球を続けることを応援してくれる家族や周囲の存在。そして自身の野球への想い。打って、走って、守れるプロ野球選手としての自身のあるべき姿を機会さえあれば見せることが出来る自信と自負を確認し続けた。だから、黙々とガレージで汗を流しチャンス到来を待ち続けた。そして吉報が届いた。
 
 プロ野球は新型コロナウィルス感染予防の観点から開幕が大きく遅れ練習も制限される状況の中、始まり、まもなく終わろうとしている。プロ野球界だけではなく社会全体が我慢と制約を強いられた一年だった。活気を失った社会。街も、どこか重苦しい。そんな中で鳥谷が前を向き日々、最善の努力を続けた。若い選手の多いマリーンズにあって、様々なアドバイスを繰り返した。気づけば自然と鳥谷の周辺には人が集まるようになっていた。

「難しい状況で困難な日々だけど、なんとかこれを力に変えて、今後の人生の糧にして欲しいと思うし自分はそうありたいと思う。この経験は今後に絶対に生きることがあると思う」
 
 ピンチに嘆き悲しむのか。その中で何が出来るのかと、もがき、考え、進み、チャンスに変えるのか。1974年以来、46年ぶりとなるリーグ優勝の夢が潰えた今だからこそ鳥谷の言葉が胸に響く。2年連続で目の前で敵チームが優勝を決めた。この悔しさを忘れてはならない。次なる糧にしなくてはならない。なにが足りなかったのかを考え、成長しなくてはならない。それらの過程を踏んだ時、この屈辱は意味があるものへと変わる。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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