国境を越えた連携で費用は主催者が負担 アジアゴルフ界で急成長する東南アジアのジュニアたち

北村収

近年活躍が目立つ東南アジア各国のジュニア選手たち 【写真:北村収】

 アジアのゴルフ界といえば、日本や韓国、そして近年では中国が強豪国として知られている。ところが、昨年日本で開催された世界最高峰のアマチュアゴルファーの大会「アジアパシフィックゴルフ選手権」では、新たな潮流が生まれていた。8位タイにマレーシアのリスク・アダム・ロヒザム選手、13位タイにシンガポールのライアン・アン選手、18位にインドの選手、19位タイにベトナムとインドネシアの選手、さらには26位タイにタイの選手が名を連ねるなど、東南アジア勢が目覚ましい活躍を見せた。ジュニア世代において、東南アジアの選手たちが近年躍進を遂げていることを証明する結果となった。

東南アジアでは、ほぼ毎週世界アマランク対象の試合が開催

14歳の林大地選手。1月に開催されたアジアンツアーの2部ツアー「ADT Selangor Masters」では、世界のプロを相手に初日トップタイ、2日間の予選ラウンドを6位タイで通過し現地メディアの取材を受けていた(写真右) 【写真:北村収/写真提供:林祐樹さん】

 今年1月、筆者は東南アジアのジュニアの急成長の理由が知りたく、東南アジアのマレーシアに向かった。マレーシア在住で14歳にしてプロツアーであるアジアンツアーの2部ツアーにもアマチュアとして出場した林大地選手の父・林祐樹氏に話を伺った。
 筆者が驚いたのが、東南アジアのジュニアゴルフトーナメントのゴルフ競技の多さ。林氏は「東南アジアでは毎週のように世界アマチュアランキング対象となるジュニアの試合が開催されている。世界アマチュアランキング対象の試合なので3日間、4日間で開催(または2日間で54ホールなど)。日本ではジュニアの試合は1日や2日の試合が多い」と話をしてくれた。

 筆者も世界アマチュアランキングの公式サイトでジュニアのイベントサイトをチェックしてみた。イベントタイプのジュニアとカテゴライズされている試合は確かにマレーシア、タイなど東南アジアの各国では頻繁に試合が開催されているが日本での開催は少なかった。

※リンク先は外部サイトの場合があります

林大地選手の父・林祐樹氏(右)。マレーシアの試合会場で関係者と談笑中 【写真:北村収】

日本勢が世界アマランクで低迷、背景にルール改正と試合環境の違い

 かつては世界アマチュアランキング(WAGR)で輝かしい実績を誇った日本人選手たち。松山英樹、金谷拓実、中島啓太らが1位に輝くなど、日本人選手が上位を占めていた。しかし、ここ数年で状況は一変している。

 現在の日本男子の最上位は隅内雅人(95位)、女子の最上位は新地真美夏(31位)。一方、東南アジア勢を見ると、男子はタイの選手が20位、女子はマレーシアの選手が3位と、ランキングでの存在感を増している。

 背景にあるのは、世界アマチュアランキングの順位を決めるWAGRポイントの変化だ。日本のプロツアーでは他のツアーに比べてアマチュアがプロの試合に出場しやすく、プロの試合で上位に入るとWAGRポイントを得られて順位を上げやすくなっていた。現在は世界的にポイントの計算方法が変わり、日本の男子プロ大会のポイント価値が相対的に下がっており、同程度の成績で得られるWAGR上の評価が以前より小さくなった。

 また、前述したように世界アマチュアランキングの対象試合が少ない日本は、その点でも不利な立場に置かれているのかもしれない。

マレーシアでは州政府系企業がゴルフをスポンサード

『PKNS Golf』のゼネラルマネージャーのハイルル・ザイニ(Hairul Zaini)氏 【写真:北村収】

 そもそも東南アジアにおけるゴルフの立ち位置とは、ゴルフは富裕層だけのスポーツなのか。筆者は1月にマレーシアで開催されていたジュニアゴルファーのチーム対抗戦である『第4回セランゴール国際ジュニアゴルフ選手権2025』の会場、『セリ・セランゴール・ゴルフクラブ』を訪れた。このゴルフ場を運営するのが、セランゴール州政府系企業の『PKNS Golf』だ。

 話を伺ったのはゼネラルマネージャーのハイルル・ザイニ(Hairul Zaini)氏。このゴルフ場の成り立ちについて、「もともとの目的は、一般の人にゴルフを広めることでした。当時、マレーシアのゴルフ場はどこも高額の会員制で、庶民には手が届かなった。そこでここにマレーシア初のパブリック・ゴルフコースを作ったんです」と話してくれた。

 さらにジュニア育成にも力を入れているという。「『PKNS Golf』は、ゴルフの普及とジュニア育成を支援しています。初心者からエリートまで、段階的な育成プログラムを用意。政府が設けたナショナルジュニア育成プログラムに沿い、各州で選手を育て、州代表からナショナルチームへと送り出す仕組みです。エリートグループは州政府がスポンサーを務め、約20名が所属。週末には合同練習を行い、優秀な選手は州代表、さらにはマレーシア代表として活躍するチャンスを得ます」。

 また、ジュニアの試合はマレーシア各地で開催されていて、若手選手たちは競技経験を積み、世界で戦う力をつけてきているそうだ。「いつかセランゴール州生まれの選手が世界チャンピオンになることを楽しみにしています」とザイニ氏は笑顔で語った。

 マレーシアでは州政府がバックアップし、ジュニア育成を強化。国際舞台で戦える選手を生み出すための土壌が整っている。

1/2ページ

著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント