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3戦連続ゴールで「時の人」となった三笘 快足ドクも封じた遠藤は“天王山”でいぶし銀の活躍

森昌利

リバプール・サポーターが優勝を確信するチャント

リバプールはプレミアのアウェー戦では10年ぶりにシティを撃破。優勝に大きく近づく勝利を挙げ、選手たちは自軍サポーターと喜びを分かち合った 【Photo by Catherine Ivill - AMA/Getty Images】

 翌23日の日曜日はマンチェスターのエティハド・スタジアムに行った。資料を見ると、リバプールがアウェーでのリーグ戦でマンチェスター・シティに勝利したのは、2015年11月21日(4-1)までさかのぼらなくてはならない。

 前日の土曜日には、アーセナルがホームでウェストハムにまさかの惜敗(0-1)を喫していた。そのためリバプールが勝てば、消化した試合が1つ多いながら、2位アーセナルとの勝ち点差が11まで開く試合。そして何より、4連覇中の絶対王者を敵地で倒し、今季のホーム&アウェーのダブルを飾れば、それこそ新王者を宣言する勝利となる。

 しかもこの数年、グアルディオラ・シティvsクロップ・リバプールの対決は、ポゼッションvsカウンタープレスという現代を代表する2大戦術の対決の構図も生み出し、プレミアリーグの金看板的なカードとなっていた。

 まさに垂涎(すいぜん)の試合だった。そしてこの天王山でリバプールが2-0の完勝を収めて、今季初めてアウェー席を埋めたリバプール・サポーターが「We are going to win the league!」とチャントした。アーセナルが負けた翌日にエティハドで10年ぶりにリーグ戦勝利を飾り、夢が壊れることには非常に臆病なサポーターが自軍の優勝を確信したのだ。

 前回――用心深いサポーターが「これで優勝できる! 間違いない!」と確信した瞬間は、30年ぶりとなる1部リーグ優勝を果たした2019-20シーズンの第23節、2020年1月19日にホームで行われたマンチェスター・ユナイテッド戦だった。

 それは、1-0のまま緊迫した状況が続いていた後半アディショナルタイム3分のことだった。モハメド・サラーがセンターラインを少し越えたあたりでGKアリソンのゴールキックを受けて、後ろから全速力で追ってきたダニエル・ジェームズと激しく競り合いながらも、そのまま鮮やかにゴールを奪って勝利を確定させた瞬間だった。シャツを脱いで、スタンドに向かって仁王立ちしたサラーを見て、アンフィールドを真っ赤に染めたサポーターがこのチャントを歌い出した。

「ボールを奪うと、ゴールを奪ったかのように声援を送ってくれる」

遠藤はクローザーとしての仕事をしっかり果たし、王者シティに最後までゴールを許さなかった。快足ドク(右)から鮮やかにボールを奪うシーンも 【Photo by James Gill - Danehouse/Getty Images】

 シティに勝利した試合後、リバプールのアルネ・スロット監督は2点を奪った前半より、「後半のパフォーマンスのほうが良かった」と言った。前半はシティの攻撃が危険に見えたという。ところが後半は、リバプールが「より試合をコントロールした」と満足気に話した。その後半の28分から遠藤航が出場して、守りに強度を与えていた。

 その遠藤と、きっと今季の優勝が確定したときにターニングポイントとして語られるに違いない歴史的な試合後、話ができた。途中出場の試合では談話なしでミックスゾーンを立ち去る場合が多いが、「今日は素晴らしい勝利。話を聞かせてくれないか」と頼むと、ニコッと微笑んで取材に応じてくれた。

 貴重な肉声なので冒頭部分の一問一答をご紹介したい。きっと遠藤のリバプールにおける現在地がリアルに伝わると思う。

――素晴らしい勝利。サポーターも「リーグ優勝する」と歌っていた。2015年以来のアウェーでのシティ戦勝利。感想は?

 入りからいい試合だったと思います。自分たちのプラン通りに試合を進めていて、いい形で先制点が取れたのも大きかったと思います。2点目もいい奪い方をして、理想のゲーム展開だったんじゃないですか。

――クローザーとして監督の信頼が厚いようだが。

 そうですね。リードしたシチュエーションなら自分が入るべきというか、ベンチを見てみても自分のようなタイプはたぶんいないんで。常に準備をしながら、という感じです。今日もチームがしっかりリードを作ってくれたので、最後、残り20分ちょっと、試合を締めるというのが自分の仕事になった。毎回毎回リードしているところに入る難しさはありますけど、今はそこをしっかり入るのが自分の仕事だと思ってやっているんで。常にいい準備をしてと、はい。

――遠藤くんが入ると守りの強度がしっかり増す。どんな点に気をつけているのか?

 まあ、もちろん入るときにはある程度、どういうふうに守るのかということは監督に言われて入るんですけど、まあ後は結局、何回ボールを奪えるかというところ。そのボール奪いにいくところとか、あとはその誰をどう助けられるかは常に考えながらやっている。

――遠藤くんは懐に入るのがすごくうまい。今日も(ジェレミー・)ドクからボールを奪い返したシーンがあった。ああいうのはやはり遠藤くんならではの強み?

 彼のドリブルの良さというは、今日も怖さがあったけど、まあでもチームとしては最後のところでしっかり守れてはいたと思う。右サイド、トレント(・アレクサンダー=アーノルド)をいかに助けるかというのを考えるのが自分の仕事だった。それは、途中で入った選手たちがある程度、負荷をかけてやっていくべきところだと思う。2対1を作ったり、ボランチを助けたり。そういうちょっとしたところにこだわることが今できているというのが、このチームの隙のなさ、強さだと思っている。そこは自分もしっかりできているかと思う。

 確かに試合終盤、少しへばっていたアレクサンダー=アーノルドは、遠藤が入ってものすごく助かっているように見えた。

 前週のウルバーハンプトン戦でも途中出場した遠藤は、1点差に詰め寄られて非常にナーバスになっていたチームの中で唯一タフな守備を見せて、サポーター選出のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれていた。

 そのことは「単純にうれしいです」と言って素直に喜んでいた。そして「リバプールのファンの皆さんが、自分が難しいシチュエーションにいて、去年は出ていたけど、今年ちょっと出られていないことを分かったうえで、応援してくれてるのがすごい伝わってくる。自分がボールを奪うと、まるでゴールを奪ったかのように声援を送ってくれる」と話していた。

 けれどもサポーターが遠藤に声援を惜しまないのは、今季は完全に控えに回りながらも、不満を全く表さず、出場すれば必ずチームのプラスになるパフォーマンスを見せ続けているからだ。わずか1分でも2分でも、全力を出し尽くす遠藤にしびれているからこそ送られる声援であり、投票なのだ。

 アタッカーとして燦然と輝く三笘もすごい。しかし遠藤もこのように、世界一激しく、ハイレベルなイングランド1部リーグ優勝に邁進するチームにいて、まさにいぶし銀のような、プロフェッショナルの塊のようなすごい存在感を示している。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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