「ジャパンウィンターリーグ2024」第3回で起きた数々の化学変化は、国境を超えた”野球界のハブ”を実現
第3回目も、沖縄の地でまた新たなムーブメントが生まれた。
発起人である鷲崎一誠氏に今回を振り返るとともに、JWLを起点に実現した国際的発展などを語ってもらった。
(取材 / 文:白石怜平)
第3回はNPB球団参加から新たな道を開拓
「陽の目を見ない場所に光を」
「野球界の登竜門を沖縄に」
の2つを理念に掲げ、国内外100人以上の野球人が自らの可能性をさらに広げる場となっている。2022年にスタートし、昨年で3回目を終えた。
今回は過去最多の14カ国・143名の選手が門を叩き、8カ国・40球団以上のスカウトが来場。
契約者も28名(2月23日現在)に達し、その進路は日本の独立リーグのみならず、アメリカやオーストラリアといった海外リーグにも広がっている。
鷲崎氏は今回さらに新たな風を吹かせた。それは自身が第3回の最重大トピックに挙げた、NPB球団の参加だった。
今回は埼玉西武ライオンズ・東北楽天ゴールデンイーグルス・横浜DeNAベイスターズの3球団。計10名のNPB戦士がアマチュアや独立リーグ、海外リーグの選手たちと共に切磋琢磨し合った。
「球界での認知度がさらに広がるきっかけになった。ただ、これも立ち上げ前から種を蒔いていたことが実ったと感じています」
このNPB球団とのつながりは、一つ大きな成果をもたらした。アメリカから来日していたロビー・テネロビッツ選手が西武のキャンプにテスト生として招待を受けた。
テネロビッツ選手は2016年にレイズに入団以降、昨季までの9年間で4球団を渡り歩くが、メジャーでのプレー経験はない。
そんな中、参加したJWLでは規定打席未満ながら打率.364、本塁打は最多タイの3本をマークした。
その活躍が西武スカウト陣の目に留まり、キャンプ参加のオファーへとつながった。結果的に入団には至らなかったが、第4回以降につながる道が確実に広がった証だった。
また、NPB選手が参加したことによる反響は大きかったとも語った。
「お互いに刺激になっていたと思います。NPBで参加したのが若手や育成選手だったので、社会人野球や海外選手の方が年齢的もレベルも上です。
でも自分のユニフォームはNPB。”このギャップって何だろう”と学ぶ姿勢がありました」
それを表すエピソードとして、西武のある選手の姿勢を挙げてくれた。
「谷口朝陽選手が打撃のアドバイスを積極的にロビーへ聞いていました。ロビーも契約を獲りに来ているのに惜しみなく教え込んでいたんです。
試合後も2人でずっと練習していて、お互い言葉は分からないと思うのですが師弟関係ができていましたね。『NPBの選手だから』などと驕るのではなく、カテゴリ関係なく選手に学ぶ姿勢というのを感じました」
社会人野球名門チームに変革をもたらす
社会人野球のトヨタ自動車では、JWLの持つ価値によって選手そしてチーム両方に変革が起きようとしている。
昨年10月に「DAZN」と業務提携を締結し、全試合をリアルタイムでライブ配信が行われた。野球ファンにとって、シーズンオフでも野球を観ることができる機会となった。
ただ、この配信において鷲崎氏は「野球ファンのみならず、野球関係者にとっても重要なコンテンツになった」と、選手の飛躍に向けた可能性がある例を挙げてくれた。
「今回もトヨタ自動車さんから派遣いただいたのですが、大栄陽斗投手は怪我の影響もあって昨シーズン1試合も投げられなかったんです。
ですが、JWLで元気に投げていた姿を配信で見て首脳陣が『こんな投げられるなら来季の戦力に入れたい』と話していました。これは本人にとっても自信につながると思うので、今季の活躍が楽しみです」
配信での中継画面にも表示されるため、現地にいなくても選手の特徴を把握・比較ができるのが特徴である。
MLBやNPBのトップ選手も通う米国のトレーニング施設「ドライブラインベースボール」のコーチがスタッフとして参加していることから、試合中に数字や改善点のフィードバックを直接受けることができる。
トヨタ自動車では、今年から導入した計測によって練習方法に変化が見られたという。
「今回からコースごとのスイングスピードや打球速度を試合中に出して、どこが課題かを明示しました。今泉颯太選手はその弱点克服に向けて期間中行った練習をトヨタに持ち帰って継続してくれています。
この方法がトヨタさんに評価され、チームとして導入されることになったんです。”ジャパンウィンターリーグメソッド”として、ヘッドコーディネーターである渡辺(龍馬)の取り組みが名門チームに認められたのはすごく嬉しかったです」
”野球界のハブ”は国境を超えたつながりを生む
まさにそのハブとして、グラウンドの外そしてJWLを終えてもその役割を担っていた。
「第2回からJICA(独立行政法人国際協力機構)の協力隊を通じても派遣いただいているのですが、今回はホンジュラスからのダビッド・アルトゥーロ・サバラ・ヌニェス選手が参加してくれました。17歳で184cm・95kgあるので数年で伸びたらプロ入りも夢じゃない可能性を秘めています。
また、野球以外でもホンジュラスの文化を沖縄の子ども達に伝える活動をしてくれました。国際交流の観点でも地域の方たちにとってま新たな発見になったと感じています」
「中信兄弟さんから『捕手のコーチを探している』と相談を受けました。
僕はそれを聞いて細山田武史さん(現:トヨタ自動車コーチ)しかいないと思いました。
同時に、トヨタさんも『ドライブラインの指導を受けたい』と話していたので、この2チームを繋いだらWin-Winになると考えました」
中信兄弟には、今回もJWLのコーチとして参加したダニエル・カタラン氏が打撃コーチとして在籍している。同氏はドライブラインベースボールでバッティングトレーナーを務め、第2回のJWLをきっかけに中信兄弟からスカウトを受けて同職に就任していた。
「トヨタさんは日本が誇る世界的な企業です。選手たちもいずれ社業に入ると思うので、今後の視野を広げる意味で海外での指導は貴重な経験になると考え提案をしたら『ぜひやりたいです』と快諾いただきました」
トヨタ自動車からは細山田コーチに加えて辰巳智大コーチを現地に派遣。中信兄弟からはカタランコーチを派遣する交換留学が行われることとなった。
人が集まり、化学変化が起きるプラットフォームに
「僕の感覚としては芽が出てきた感覚。そんな3年目でした。ずっと駆け抜けてきましたし、山を登ったら次の山が見えてくるイメージです。
JWLを知ってくれる人がようやく増えつつありますが、今後10年、20年と続くためにはさらに進化していかないといけないです」
「蕾が出て来たので水をあげて花を咲かせる取り組みもそうですし、新たな事業の種まきもしないといけないです。
人が集まり、化学変化が起きるプラットフォームを目指す一つの施策として、展示会やセミナーを開催する就職フェアを開催したいと考えています。
野球を辞めて企業に就職後、社会人経験をある程度積んだ先のステップとして『野球界に恩返しをしたい』想いを持っている方が多くいると感じています。我々はそういう方々の力にもなりたいです」
第4回に向けてすぐ動き出しているという鷲崎氏。JWLはまだ進化の途中にある。
(おわり)
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