引退発表1カ月後の“ジーニアス”柿谷曜一朗 ぶっちぎりに評価する選手とコーチ経験&解説業、今後のプランとは
コーチ業を「今後はやりたくない」という理由
「(U-18・Jリーグ選抜の)コーチとか(大阪ダービーの)解説をしましたけど、コーチは絶対に自分に合ってないのが分かったので、今後はやりたくない。そのことが分かったので、やって良かったですよ。やらないと分かんないんで」
高校年代の“金の卵”たちに熱心にアドバイスする動画などが話題となり、現場でのコーチの手腕に対する評価も高かったと聞くが、「今後はやりたくない」理由を、柿谷氏は率直に“柿谷らしい”言い回して説明してくれた。
「例えば幼稚園とか小学校2、3年生ぐらいまでやったらまだいいかなと思うんですけど、それより上の子たちは、例えば僕の教え方1つでその後の道が変わる可能性がある。その責任を持ちたくない。特にプロになるような高校生の子たちは技術的にはほぼ完成されてるし、そこで僕が何かを言ったことで違うふうになってしまうリスクを負いたくないんです。だから、ただただ応援する立場がいいですね。そういう役割のコーチならやってもいいかな。いろいろ聞かれるとアドバイスしたくなるし、今回は2日だけやったけど、その2日だけでも選手たちにすごい愛情が湧いたんですよ。それを1年とかやったとしたら“絶対に活躍してほしい”ってなる。そうなるから、やりたくないんですよね」
おそらく、後半部分の「愛情過多」になってしまう自分自身を避けたいという理由の方が強い気がするが、では解説業はどうだろうか。柿谷氏は「別に解説してるつもりはない」と言いながら、解説する上で「気を付けていること」を語った。
「僕が一番、気を付けてるのが、選手をリスペクトすること。あの場に立てることってすごいことやし、観ている人たちもリスペクトを持って観てほしいというのが一番にある。その中でいろんな私情はあると思いますけど、メディアとかSNSとか、その内容で、ちょっとしたことでも選手って傷付いたり、つぶれたりするんですよね。だから解説するときも、そうならないように気を付けながら喋りたい。もしかしたら、コーチよりかはこっちの方がまだ向いてるかなとは思います」
サッカー系文化人って?
それに対して柿谷氏は「僕は大久保嘉人さんが大好きなんで」とC大阪の先輩の名前を出した。大久保氏は引退後、サッカー番組に留まらず、テレビのバラエティ番組などにも多数出演してきたが、今年4月から家族と一緒にスペイン移住を発表している。その“別れ”を残念がりながらも「これはチャンスや、と。今まで嘉人さんがやってたことを、そのポジションを、貪欲に、行く」と青嶋アナウンサーと声を揃えながら宣言。具体的に“何か”はまだ決まってはいないが、まずは「嘉人さんのように」というのが今後の方向性のようだ。
大久保氏とは普段、特に2人で会ったりすることはないとのことだが、「スペイン行く前に絶対に会おう」と連絡が来たという。柿谷氏は「10年ぶりぐらいですよ」と笑いながらも尊敬する先輩との再会を楽しみにしている。
その柿谷氏は、6歳と4歳の娘、そして昨年8月に産まれたばかりの、まだ0歳の息子の父親でもある。引退して生活スタイルが変わる中でも、子どもとの時間は大事にしたい。
「やっぱ現役のときの方が、子どもとずっとおれたなって思いますね。決まったルーティンがあったし、特に徳島にいる2年間は子どもとずっと一緒におれたかなと思う。でも現役のときと違って学校行事には参加できるんじゃないですかね。そこはマネージャーと奥さんと相談ですけど(笑)」
“ジーニアス”と称されてきた柿谷氏だが、その格式高くスマートな二つ名とは相反し、実際は大阪人らしいユーモアと人情味あふれる男だ。彼ならば、ピッチ内でのプレー同様に、ピッチ外でもファンの心をつかんで離さないはず。引退会見の際に明かした大阪ダービーでの引退試合も実現へ向けて交渉継続中とのこと。何より、柿谷氏が引退後も生き生きとした姿でサッカー界と関わっていることが、彼の天才的なプレーに心を躍らせた1人として、実に嬉しい。そして、今後の活躍が楽しみでならない。
(取材・文:三和直樹)