横浜開催でチケット完売、整氷は無事完走も…カーリング日本選手権で残った課題は?

竹田聡一郎

スポンサーメリット拡大には可能性も

【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 スポンサーとしては昨年までのトップパートナーである全国農業協同組合連合会(JA全農)と並んで、アルゴグラフィックス、スターツコーポレーション、ノジマが出資してくれた。ノジマやプラチナムパートナーズのアマノ、日産神奈川販売などは地元横浜の企業でもあり、やはり都市部開催のポテンシャルを感じさせる側面だった。

 ただ、欲を言えばJCA(日本カーリング協会)はスポンサーに対し、露出やスポンサーメリットについてもう一考あっても良かったかもしれない。
 例えば、長らくカーリングを支えている全農は会場内で「全農ブース」を展開し、大会オリジナル和牛おにぎりなどの自社商品を販売した。これまで選手や関係者のみに設置していた「もぐもぐブース」からPRの幅を広げたことになる。

 同じくロコ・ソラーレをサポートしていることでも知られているアルゴグラフィックスは、試合日程などを載せたオリジナルパンフレットを作成し無償配布している。
 プラチナムパートナーであるナブテスコも同様に自社のキャラクターを使ったカーリングキーホルダーを限定配布するなど、カーリングへの関わりに一日の長がある組織や企業が存在感をアイス外で見せた。
 スターツコーポレーションやノジマは副賞提供やチケットプレゼントなどのキャンペーンを展開していたが、JCAとしてはSNSなどを活用してそれを周知するなどの積極的な協力体制があっても良かった。カーリングに出資するとどんなリターンがあるのか、そこは今後も強く意識すべきかもしれない。

何より優先されるべき選手たち

 大会委員長であり、JCAの酒巻智副会長兼専務理事は横浜市と横浜市スポーツ協会の援護を受けて開催できた今大会について「(カーリングが)新しいステージに入りつつある」としながらも「関係者選手も含めて、新たな心構えを持たないと、こういう大会を続けるのは難しい」と述べる。
 来季以降の横浜開催については「横浜市さん、横浜市スポーツ協会さんの協力を得られるかどうかという部分」を鍵に挙げ、その一方で「次に向けての意見も(関係者内から)出ている」とし、「まだ『やる』という言葉は出せないんですけれど、できればいいなと(考えている)」と前向きに語った。

 そのためにも完売しても空席ができてしまったチケットのリセールや価格設定をはじめ、キャパシティの再考、NHKで放送しないシートの配信権の扱いやその方法、「もぐもぐ横丁」の内容や周知etc……。よりよい大会にしていくために有意義な議論が求められる。

 その中で何より優先されるのが選手を守ることだ。

 酒巻大会委員長は「思った以上に観客のみなさんがカーリングを分かっている」と来場者に感謝を込めてポジティブに発言していた。冒頭で紹介したシーンのように、多くの観客がカーリング精神に則った応援をしてくれた。これは一番の横浜開催の収穫かもしれない。

 しかし、その一方で選手や関係者と会場外で接触しようと追いかけたり、宿舎を特定し“出待ち”をするファンも少なからず存在した。これについては普及の過程で不特定多数が興味を抱く以上は、ある意味では仕方ない問題だ。観る側のカーリング精神に委ねるだけではなく、有効な対策をとるべきだ。

 例えば、近隣のホテルを公式ホテルとして契約し、希望するチームや関係者で貸し切る。ホテル内のレストランや宴会場なども会場の延長として捉え、PVやサイン会セッションなどを開催する。アイデア次第でプロモーションとマネタイズは両立できるはずだ。

 フォルティウスの近江谷杏菜は多くの観客の大歓声に包まれた初戦を終え開口一番に「楽しい!」と大声で言い切った。ロコ・ソラーレの藤澤五月は「観客のみなさんと試合を作るワクワクがある」と笑顔を見せた。TM軽井沢の両角友佑は「多くの方々の前でカーリングを見せられる機会、やっとそういう時代が来たなと感じています」と横浜開催を歓迎した。

 JCAはオリンピックイヤーである2026年の日本選手権を、5月ないし6月に横浜市、軽井沢町、稚内市、札幌市のいずれかで調整と既に発表している。横浜での盛会を未来に繋げるだろうか。

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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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