坂本花織の冷静と島田麻央の挑戦、樋口新葉の集中 三者三様の強さが光った全日本女子

沢田聡子

昨季とは違うモチベーションで今季に臨んでいる樋口新葉 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

「落ち着いて滑れている」今季の樋口

 毎年、ハイレベルな戦いが展開される全日本選手権の女子シングル。今大会(12月20~22日、大阪・東和薬品ラクタブドーム)でも、女子は熾(し)烈な戦いとなった。メダルを獲得したのは、4連覇を果たした世界女王・坂本花織、自身最高位となる2位に入った世界ジュニア女王・島田麻央、昨季競技に復帰して3位に入った樋口新葉。3人は、それぞれの道程を歩んで表彰台にたどり着いた。

 樋口は全日本選手権を一番大切な試合と位置づけて今季を戦ってきた。進出を果たしたグランプリ(以下GP)ファイナル(12月上旬・フランス)も、全日本選手権のためのステップととらえていた。

 そして迎えた今大会、ショートでは回転不足とエッジエラーがあったこともあり4位発進。1日おいて迎えたフリー、最終グループの3番目に登場した樋口は、決意を感じさせる表情でスタート位置につく。

「フリーに関しては『落ち着いてやれば大丈夫』という自信が持てていた」という樋口は、『Nature Boy /Running Up That Hill』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)を大きなミスなく滑り切った。3回転を予定していたものの2回転になってしまったサルコウはファイナルでもミスした部分で、練習でも気をつけていたというが「やっぱりちょっと、本番でタイミングがずれちゃったかな」と振り返っている。

 神秘的で静かな前半から、樋口らしいエモーショナルな表現が印象的な後半への変化が印象的なプログラムを滑り終えると、樋口は氷上に突っ伏してしばらく立ち上がれなかった。実は「足もけっこう限界で、今日はテーピングを巻いていた」という。

「多少、不安もあって。ただ、本当にやってきたことをそのまま出すだけだし、もうそんなことを考えても仕方ないし。『あと10分で終わる』って思いながら、今日はリンクに入ったので。本当に気持ちを強く持って『もう絶対失敗しないように』って思いながら、最後は滑っていた。息ができないぐらい張りつめた中で最後まで滑れたので、その疲れが最後出ちゃって。立てなくなりました」

 昨年の12位から躍進して戻ってきた表彰台の景色は「久しぶりだったんですけど、すごく嬉しかったです」と樋口は笑った。

「去年は(休養からの)復帰のシーズンだったし、振り返ってみて『自分の持っている力を全部出し切るのはちょっと難しかったのかな』とは思います。今年はすごく気持ちも切り替えて、全然去年とは違うモチベーションの中で競技に取り組んでいて。練習でも試合でも自分をしっかり持って、落ち着いて滑れていることが、振り返ってみても印象に残っている。『すごく成長できた一年だったな』と思うので、この先の試合でまたこの経験を生かして、しっかり集中して、またレベルを上げていけるといいなと思います」

「自分に打ち勝つことができた」島田

シニアの舞台で、二つの大技に挑んだ島田麻央 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 今季も全日本ジュニア選手権・ジュニアGPファイナルを制し、ジュニアでは無敵の島田麻央は、2年連続で獲得した銅メダルよりひとついい色の銀メダルを獲得した。

 ショートでは、ジュニアでは規定により入れられないトリプルアクセルを4分の1回転不足ながら着氷させ、2位発進。フリーでは、最終グループの5番目に滑走した。

「すごく緊張するような滑走順だったので。いろいろな選手がすごくいい演技をして、大歓声の中出ていくことは、もう予想して分かっていました。今回もそうだったので、すごく緊張したんですけど、自分に集中してなんとか滑り切りました」

「自分はできる」と信じ、演技をスタート。数々の俳句を歌詞に織り込んだ『窓から見える』(ローリー・ニコル氏振付)は、トリプルアクセルから始まる。6分間練習では感覚が良くなかったものの「思い切りいこう」と挑み、回転不足ながら着氷。次の大技である4回転トウループは、6分間練習と同じような形で転倒した。だが、続く3回転ルッツ+3回転トウループは島田らしい強さで成功させる。その後はほぼ完璧といっていい演技をみせ、最後は島田の持ち味でもある高速回転のスピンを披露して喝采を浴びた。

「自分はシニアではなくてジュニアで、世界選手権の代表もかかっていないので『伸び伸びと滑りたい』という思いでこのリンクに来たんですけど、やっぱり滑り出し始めると、それは本当に難しくて。すごく緊張したんですけど、自分を信じて『できる』と思って、一つひとつのジャンプを跳びました」

「素晴らしい選手が集まる全日本選手権で2位になれたことは、本当に嬉しいです。4回転の失敗はあったんですけど、その他はミスをすることなく滑り切れた。自分に打ち勝つことができて、その部分が本当に一番嬉しいです」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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