寺地拳四朗の強さがリミッターを外す!? ユーリ阿久井政悟の“戦慄の右”は解き放たれるのか
リングで“覚醒”を見るのは、それから2年後の2016年12月3日、東京・後楽園ホールのセミファイナルだった。互いに探り合う展開から、放り込むような右でいきなり倒すと立ち上がった相手に攻めかかる。右を打ち込むたびにグラリ、グラリと体が揺れ、危険な状態が続いた。
タオルが投入され、セコンドがリング内に駆け込んだところでようやくレフェリーがストップ。日本ランカー対決に1ラウンド2分3秒TKO勝ち。場内は騒然となった。
銀河系最強になる――。次の後楽園ホール登場も電光石火の初回TKO劇で終わらせ、5カ月前のファーストインパクトがフロックではなかったことを証明。真顔で口にした壮大な野望とともに岡山・倉敷から来た当時21歳のボクサーは脚光を浴びた。
3月13日、東京・両国国技館で行われる「U-NEXT BOXING2」でWBC世界フライ級王者の寺地拳四朗(BMB/33歳、24勝15KO1敗)との王座統一戦に臨むWBA同級王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安/29歳、21勝11KO2敗1分)のことである。
11KO中、実に9KOが1ラウンド。そのほとんどを演出してきたのが右だった。阿久井の基礎をつくった倉敷守安ジム第1号のプロで、元A級ボクサーの父・阿久井一彦さんは「こだわりの右ストレート」と表現し、「速く打つコツは、遅く打つこと」と言った。
現在、阿久井は5戦続けて判定勝ち。大一番で右は威力を発揮するのか。史上3度目、注目の日本人世界王者同士による王座統一戦を前に“戦慄の右”のルーツをたどった。
今回はリミッターを外せたら
過去にスパーリングで何度も寺地と手合わせした阿久井自身、「今まで拳を交えて、一番強かったのが拳四朗さん」と認めている。が、最強と認める相手に挑むからこそ、チャンスはあるのかもしれない。
日本フライ級王者時代の2021年7月21日。後楽園ホールで桑原拓(大橋)を最終10回に文字通り切って落とし、鮮烈にフィニッシュしてからKO勝ちから遠ざかる。その点をどう自己分析するか。
2月27日、帝拳ジムで行われた公開練習前の会見。そう問われた阿久井は苦笑まじりに答えた。
「自分はパワーファイターじゃないから。そもそも倒してたことが間違いで、あの時代が間違いだったんで。倒すに越したことはないですけど、そこが自分の売りじゃないんで。とにかく自分の力を出し切るようにしたいです」
だが、1カ月前の1月27日、都内のホテルで開かれた発表会見後の囲みで、同じ問いを投げかけた筆者には違う答えを返していた。
「リミッターを外せてなかったというか。世界戦だから、堅実に行かなきゃというのはあったと思うんですけど。今回は、そのリミッターを外せたらな、と」
思い出されたのが1年前の3月下旬。東京ドームで迎える初防衛戦で、桑原との再戦に臨む阿久井を倉敷守安ジムに訪ねたときのことだった。
取材を終えるとすでにジムを閉める時間になっていた。帰り際だった須増トレーナーに守安竜也会長が声をかけてくれ、倉敷駅前に取っていたホテルに送ってもらうことになった。その車中で聞いたのが阿久井の右ストレートについての興味深い話だった。