【新旧女王対談:後編】あんな試合がしたい――晝田瑞希がアメリカで見据え、藤岡奈穂子さんも期待するビッグマッチとは?

船橋真二郎

1⽉17⽇にアメリカ・デビュー戦を迎えるWBO⼥⼦世界スーパーフライ級王者の晝⽥瑞希(左)と元女子世界5階級制覇王者の藤岡奈穂子さん 【写真:伊藤キコ】

 晝田が初のロサンゼルス合宿に旅立ったのは2023年4月12日。自身の27歳の誕生日のことだった。「変わりたい、一歩踏み出したい」という思いが込められていた。「今の女子のレベルは確実に上がっている。巧くなった」。そう評価する一方で、藤岡さんが「足りない」と注文をつけていたのが「強さ」だった。晝田の踏み出した一歩は、その「強さ」を求める一歩でもあった。

「私が魅力的な選手になれば、女子ボクシングも盛り上がる」

――晝田選手がロサンゼルスのマニー・ロブレス・トレーナーのもとに合宿に行くようになって、求めてきたのは攻撃の部分だと思うんですけど。手応えをどう感じていますか。

晝田 うん、そうですね。プロの女子は1ラウンド2分しかないから(アマチュアの女子は1ラウンド3分)、KOするのは難しいと思うんですね。あ、あと少し時間があったらできたのに、とか。相手も結構、逃げ切れちゃうから難しいんですけど、やっぱりKOはしたいですし。

藤岡 KOしてるもんね。

――それもロサンゼルス合宿に行くようになってから、ここ2戦続けて。

晝田 まあ、最近は……一応……。

――どうして声が小さくなっちゃうの?(笑)

晝田 まだね、たまたまかもしれないから(笑)。

藤岡 たまたまでもいいんだよ。たまたまでも倒せないんだから(笑)。

晝田 でも、ほんとに1回、チャンスを逃したら、次があるか分からないぐらい時間がないから。ここ、というときに行けるかどうかがすごい大事だと思ってて。そのための材料をずっと集めてるような感じ。まだほんとに。

――例えば、その材料というのは?

晝田 私はアマチュアの感覚があるから、当てて、引いちゃうんですよね。もらいたくない、が強くて。で、せっかく当てたのに、なんで行かないの? なんで下がっちゃうの? って、アメリカではめっちゃ言われるんですね。当てたら引くんじゃなくて、横に動いて、ボディを打って、また横に動いてとか。相手が嫌がるポジションを継続して取るとか。

――離れるんじゃなくて、ディフェンスも意識しつつ、角度を変えて、攻め続けるような。

晝田 そう。それをミットだったり、スパーリングだったり、シャドーでもそうだし、そういう動きを繰り返し、繰り返し。その中にウィービングとか、ダッキングを入れるので、リングにヒモを張って、それをくぐる練習をしたり。そもそも、そういう動きを今までやったことがなかったんですよ。

藤岡 ウィービングとか? そうなんだ(笑)。

晝田 そうなんですよ。だから、最初にアメリカに行ったときは、動きが小さ過ぎる、とか言われたり、今もなんですけど、動きが硬くて、なめらかに動けないから、動きがロボットみたいとか(笑)。昔よりは、少しはできるようになってきましたけど。

リングに張ったヒモをくぐりながらのシャドーボクシングを繰り返す晝田 【写真:伊藤キコ】

藤岡 脱力ね。接近戦は力んでるとできないから。ヒザの力を抜かないとね。

晝田 あ、めっちゃ言われます! もっとヒザを柔らかくって。

藤岡 そう。ヒザを柔らかく使えないと連動しないから。

――藤岡さんは今の女子のレベルは高くなった、巧くなったけど、強さという部分では足りないと。まさに倒すとか、KOはプロの醍醐味だから、求めていかないといけないと言っていましたね。

藤岡 難しいんですけどね。バランスが。お客さん目線で言えば、バチバチの打ち合いとか、倒すか倒されるか、みたいなのが見たいので、きれいなボクシングだけで危険を冒さなかったら、やっぱり面白くない。でも、危険領域に踏み込んで、ムダにパンチをもらうとかじゃなくて、そこで巧さの中に強さがあるのが魅力的だから。

晝田 そうですよね。でも、それが一番、難しいんですけど。

藤岡 うん。でも海外で試合していくとなると、それがますます求められる。だから、さっき言っていた練習でやってるギリギリのポジショニングとか、ウィービングとか、すごい大事だと思う。そのスレスレのディフェンスが。

晝田 そうですよね。プロである以上、お金をもらってる以上は。

藤岡 そうね。魅せないと。お客さん、というより、ファンとしてね、つかないから。ファンになってほしいじゃない。せっかく体を張ってるんだから。

晝田 今、私が思ってるのは、女子ボクシングは盛り上がってないとかいう前に、私がもっと魅力的な選手になればいいんだって、思ってて。私がめちゃくちゃ面白い試合、バンバン倒すとか、それこそムダにもらわないで打ち合うとか。それができたら、自ずとついてくるものだと思うから。だから、まだ自分の実力不足ということなので、今は自分に目を向けてます。

藤岡 うん。相手がいる競技だから、レベルが高い者同士でやればやるほど、その中で魅せるって、ほんとに難しいことではあるんだけど、プロで、トップでやってる以上、そこを目指さないと。

海外の女子ビッグマッチに刺激

藤岡さん(左)にあやかろうと両手をかざしてエネルギーを吸い取る(?)晝田 【写真:伊藤キコ】

 11月15日、晝田のロサンゼルス合宿中にテキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで、元ロンドン五輪ライト級金メダリストで女子世界スーパーライト級4団体統一王者ケイティー・テイラー(アイルランド)と女子世界7階級制覇王者アマンダ・セラノ(プエルトリコ)による注目の再戦が行われた。

 2022年4月、ニューヨークの殿堂マディソン・スクエア・ガーデンを舞台とした女子では初のメインで行われた両者の第1戦は女子ボクシングの金字塔、観衆を熱狂させる激闘となり、プロに転向したばかりの晝田も大いに刺激を受けていた。

 今回もまた大熱戦が繰り広げられ、セラノがテイラーに再び惜敗したが、アメリカ・デビューが現実に近づく状況で見た第2戦は、より自身の目指すべき姿として晝田の目に映っていた。

晝田 この前のロサンゼルスにいる間に「ケイティー・テイラー×アマンダ・セラノ2」があって、『Netflix』で見てたんですけど。ほんとにすごくて、感動しちゃって。あれぐらいパワフルで、見てる人たちも、本人たちもエキサイトするような、あんな試合を私もしたいな、と思って。

藤岡 同じぐらいのレベル同士でやれたらね。

晝田 そうですね。あれはほんとにレベルが高い同士で、お互いめっちゃ怖いだろうな、と思いますけど。

藤岡 でも、楽しいと思う。楽しいだろうし、ああいう大きな会場、大観衆の前でやることで興奮もするだろうし。

晝田 そうですよね。ああいうのを自分の憧れとして、常に忘れずにいたいな、と思いますし。あのアマンダ・セラノの(右目の上の)カット、めっちゃヤバかったじゃないですか。それでも彼女は「できる」って言って、最後までめちゃくちゃ打ち合いましたよね。「どんな根性!?」って思ったんですけど。

藤岡 アドレナリンも出てるし、負けず嫌いも出てくるだろうし。強い気持ちがないと。

晝田 はい。私も、どんな状況でも、何が起こっても強くありたい、強い人になりたいと思ってます。

――大きい会場ということでは、藤岡さんの最後の試合の舞台になったアラモドームも。

藤岡 そうですね。あのときは2万人かな? あれでも半分ですけどね。

――最大4万人ですか。そういう先輩がいるわけだから、目標にできますよね。

藤岡 いや、やれますよ。可能性はあると思います。

晝田 エネルギーを吸い取っておこう……(と藤岡さんに向かって両手をかざす)。

(一同笑)

藤岡 いけるよ、いけるよ、全然(笑)。

晝田 今のでいける気がしてきた(笑)。

藤岡 でも、イメージは大事。ここでやりたいじゃなくて、やるんだって思わないと。向こうで試合も観に行ったでしょ?

晝田 はい。前にラスベガスにも行って。マジで祈ってきました(笑)。

藤岡 ここでやれますようにって?(笑) いや、大事、大事。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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