レッドブル2025:なぜ角田裕毅でなく、リアム・ローソンだったのか

柴田久仁夫

ローソン抜擢は、リスクを承知の上?

来季はこの二人が、レッドブルのドライバーラインナップを形成する 【(c) Redbull】

 確かにローソンは、優れたドライバーだ。しかし繰り返すが、まだ11GPの経験しかない。対する角田は、どんな戦い方をするドライバーか十分に周知されている上に、確かな進化を続け、実績も積み上げている。しかも基本的には来季も同じマシン挙動になるはずのRB20を走らせ、「安定した速さを発揮し、技術フィードバックも実に的確だった」と、担当エンジニアは賞賛していた。

 それでもレッドブルは、ローソンを採った。二人をあらゆる側面から比較して、「総合的にローソンが角田より優れている」という判断だったのだろう。もちろんそこには、部外者の僕たちには見えないものもたくさんあるはずだ。しかし見える部分に限れば、角田を抜擢しなかった理由が理解できない。

 主要な下位カテゴリーでタイトル獲得経験がなく、F1で11戦しか走っていないドライバーを、現役最高のドライバーと言われるフェルスタッペンのチームメイトに据えたのは、あまりにリスキーな決断ではないか。

 ホーナー代表はローソンの「強靭なメンタリティ」を評価している。しかしたとえばメキシコGPではペレスとの激しいバトルの末に接触、大きなダメージを与えた上に中指を立ててペレスを非難した行為は、ほとんど不問に付された。しかし来季、トップチームで戦う上で、アンガーマネージメント(怒りの抑制)ができないことは致命傷になりうる。

角田がすべきことは?

角田が再びレッドブルのウェアを着る日は来るだろうか 【(c) Redbull】

 何よりローソンが真に速いドライバーなら、いくら経験が浅いとはいえ角田に対して予選で0勝6敗はありえない。来季、フェルスタッペンを相手にコンマ数秒以上の大差で負け続ける状態が続いても、ローソンは平常心を保ち続けられるだろうか。

 ちなみにホーナー代表は上述のインタビューで、こんな意味深な発言をしている。

「来シーズンもユウキがレーシングブルにいるのは素晴らしいことだ。必要になった時のために、待機してくれる存在だからね」

「必要になった時」とは、ローソンが崩れた時を考えて、シーズン中の角田との交代も視野に入れているということか。そう考えざるをえないコメントである(だったら最初から角田にしろと突っ込みたくなるところだが)。

 しかしもしそうなったら、かつてのピエール・ガスリーがそうだったように、ローソンという若い才能を潰しかねない。それでもレッドブルは、ローソン抜擢を決めた。ならば角田にしてみれば、来季もレーシングブルズで輝き続けるだけのことだ。

 シーズン途中でレッドブルからお呼びがかかるにしろ、2026年以降アストンマーティン、あるいは他チームのシートを得るにしろ、今の角田裕毅なら十分に期待に応える仕事をしてくれることだろう。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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